おお おまえたち優しい者よ 時には歩み入れ、
おまえたちを想っていない呼吸のなかへ。
それをおまえたちの頬で二つに分けよ、
おまえたちの背後でそれは慄えるだろう、また一つに結ばれて。
おお 幸いな者たち そこなわれていない者たち、
心のはじまりのようにみえる者たちよ。
矢をつがえる弓として矢のめざす的、
涙にぬれておまえたちの微笑は、より永遠に光り輝く。
悩むことを恐れるな、その重み、
それを大地の重みに返すがよい、
山々は重い、海もみな重い。
幼い日おまえたちが植えた樹々ですら、
すでに久しく重すぎて もちあげられぬだろう。
だが微風は・・・・・・だが空間は・・・・・・
(田口義弘訳)
おお、君たちやさしい人々よ、ときには
君らを意に留めぬ風の息吹に立ちたまえ、
その風が頬に触れ、分かれるままにしたまえ、
君らの背後では風がふたたび合わさって慄える。
おお仕合わせな人々、おおすこやかな人々よ
心情のはじまりともみえる君たちよ、
矢をつがえる弓、弓の向かう的、
君たちの微笑は泣き濡れて、ひとしお永久にかがやく。
悩むことは怖れるな、苦悩の重さを。
その重量を大地の重さに返してやれ。
山々は重い、大海は重い。
幼いころ君たちが植えた木々さえ、
とうから重くなりすぎている。君らもそれを背負えまい。
けれども風は・・・・・・けれど、もろもろの空間は・・・・・・
(生野幸吉訳)
「おまえたち優しい者よ」「君たちやさしい人々よ」というのは、「愛(あるいは恋?)しあう人々」のことではないか?それも「愛あるいは恋」のはじまりにある人々を指しているようです。「矢をつがえる弓、弓の向かう的」という比喩も「愛の神・キューピット(アモール)」というわかりやすく馴染み深いものだろう。そして愛することの苦しみまではまだ至っていない若者たちに、「3」の風は「4」にも引き続き吹いています。この「ソネット」そのものが、終行がまた初行へと戻ってゆくようだ。
* * *
ここからは単なる独り言です。リルケとのことでもなく、ひととのことでもない。わたくしは日常的に残酷な言葉の洪水に襲われている。しかしこちらの言葉は一向に届かない。言葉の虹を繰り返しかける。が、すぐにかき消される。風のなかを1人で歩く。わたくしの頬や首、肩は風を切り開くように感じても、風はわたくしの背後でその流れをまた一つにするのだった。そして風の行方は途方もない。わたくしは地上のかすかな1点の重みとなって立つ尽くすのみ。人間は本来的に孤独なのだと自分に言い聞かせる。
おまえたちを想っていない呼吸のなかへ。
それをおまえたちの頬で二つに分けよ、
おまえたちの背後でそれは慄えるだろう、また一つに結ばれて。
おお 幸いな者たち そこなわれていない者たち、
心のはじまりのようにみえる者たちよ。
矢をつがえる弓として矢のめざす的、
涙にぬれておまえたちの微笑は、より永遠に光り輝く。
悩むことを恐れるな、その重み、
それを大地の重みに返すがよい、
山々は重い、海もみな重い。
幼い日おまえたちが植えた樹々ですら、
すでに久しく重すぎて もちあげられぬだろう。
だが微風は・・・・・・だが空間は・・・・・・
(田口義弘訳)
おお、君たちやさしい人々よ、ときには
君らを意に留めぬ風の息吹に立ちたまえ、
その風が頬に触れ、分かれるままにしたまえ、
君らの背後では風がふたたび合わさって慄える。
おお仕合わせな人々、おおすこやかな人々よ
心情のはじまりともみえる君たちよ、
矢をつがえる弓、弓の向かう的、
君たちの微笑は泣き濡れて、ひとしお永久にかがやく。
悩むことは怖れるな、苦悩の重さを。
その重量を大地の重さに返してやれ。
山々は重い、大海は重い。
幼いころ君たちが植えた木々さえ、
とうから重くなりすぎている。君らもそれを背負えまい。
けれども風は・・・・・・けれど、もろもろの空間は・・・・・・
(生野幸吉訳)
「おまえたち優しい者よ」「君たちやさしい人々よ」というのは、「愛(あるいは恋?)しあう人々」のことではないか?それも「愛あるいは恋」のはじまりにある人々を指しているようです。「矢をつがえる弓、弓の向かう的」という比喩も「愛の神・キューピット(アモール)」というわかりやすく馴染み深いものだろう。そして愛することの苦しみまではまだ至っていない若者たちに、「3」の風は「4」にも引き続き吹いています。この「ソネット」そのものが、終行がまた初行へと戻ってゆくようだ。
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ここからは単なる独り言です。リルケとのことでもなく、ひととのことでもない。わたくしは日常的に残酷な言葉の洪水に襲われている。しかしこちらの言葉は一向に届かない。言葉の虹を繰り返しかける。が、すぐにかき消される。風のなかを1人で歩く。わたくしの頬や首、肩は風を切り開くように感じても、風はわたくしの背後でその流れをまた一つにするのだった。そして風の行方は途方もない。わたくしは地上のかすかな1点の重みとなって立つ尽くすのみ。人間は本来的に孤独なのだと自分に言い聞かせる。