ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

父と暮せば

2011-08-09 14:26:20 | Movie



原作:井上ひさし(戯曲)
監督:黒木和雄
脚本:黒木和雄、池田眞也


《キャスト》
福吉美津江:宮沢りえ
福吉竹造(実は幽霊。)原田芳雄
木下正:浅野忠信


この映画は、ほとんど忠実に原作に沿って製作された映画です。台詞も含めて。
ただし、舞台公演では父と娘との2人芝居であり、背景の転換もほとんどない。
娘の美津江の恋人「木下正」は舞台では、語りのなかでその姿を想像させるが、映画では登場する。
また娘の勤務先の図書館も出てきます。ここが恋人との出会い。彼は原爆の資料を集めていた。
しかしまだ日本では、アメリカの圧力によって、それらが公にすることを禁じていた時代であった。
それでも「瓦礫」のなかには、原爆の巨大なエネルギーとその犠牲となったものの証拠はいくらでもあった。


原爆投下から3年後の広島の、雨漏りのする一軒家を舞台に、生き残ったことへの負い目に苦しみながら生きている娘のところへ、
何故父親は幽霊(この幽霊には足があった。)となって現れたか?
それは娘が「生き残った自分には幸福になる権利はない。」という精神的呪縛と、木下正への恋情に揺れていたから。
この恋情の熱さが、父親の傷のない体を蘇らせた。

しかし、奇妙な錯覚に陥る。父親役の「原田芳雄」は亡くなったばかり。
映画だけでなく、彼は本当に「幽霊」なのだった。(しかし、彼は名優だなぁ。ほれぼれ。)

父と娘との生死を分けた出来事とは、庭にいた父と、友人に手紙を出そうとして外出しようとした娘が、
その手紙を落としてしまい、その手紙を拾うために庭の石灯籠の陰に身を屈めた。
このわずかな違いが生死を分けた。
そして、その手紙の送り先だった友人は被爆して亡くなり、その母親に「なぜあなたが生き残り、私の娘が死んだのか?」と。

被爆して瓦礫の下に倒れた父を助けようとしたが、娘の力ではどうにもならない。
「早く逃げろ。」という父親と、逃げられない娘とがじゃんけんをする。
それは子供時代からわかりきったことで、父親は「ぐー」しか出さない。
だから娘も「ぐー」しか出さない。そしてぎりぎりのところで父親を見捨てた娘だった。

もちろん娘が被爆しなかったわけではない。
3年経って、症状は軽減されたものの、被爆2世の母親にもなるわけで、それでも恋人は結婚をするという。
そこで、幽霊の父親は、なんとしても娘のところへ現れるのだった。

さらに、図書館の子供向けお話会では、娘は語り継がれた昔話を正確に伝えることに専念していたが、
父親は「原爆の現実を語れ。」と助言する。
そして、父親は役目を終えて消えてしまった。

「おとったん、ありがとありました。」

ユーモラスに仕立てながら、実は「ドスン!」と重い映画なのである。
井上ひさしはやはりすごい!

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