イオンとクレウサとの関係は、オイディプスとイオカステーの関係と瓜二つで、母と子がお互いに相手の存在に気が付きません。しかし、違いもあるといいます。
というのも、『オイディプス王』では、フォイボス・アポロは端から本当のことを話しますし、どうなるのかについて正直に見通しを言います。そして、人間はいつだって、本当のことを包み隠し、あるいは、見ないようにするものですが、それは、神が予言する運命から逃げようとするからです。しかし、結局は、アポロが二人に与えた、いつくかの印によって、オイディプスとイオカステーは、二人が本当のことから逃げようとしたのにもかかわらず、本当のことを発見することになります。現在では、人間は本当のことを見つけたいと願っています。イオンも自分はだれで、どこから来たのかを知りたいと思います。クレウサも自分の息子の運命を知りたいと思います。しかし、本当のことを自ら暴けるのは、まさにアポロだけでした。本当のことに関するオイディプスの問題は、人間が、自分自身は本当のことがよく分かっていないけれども、神が語り掛け、人間は見たくない、真実の光をいかに見るかを示すことによって解決します。本当のことに関するイオンの課題が解決するのは、アポロがだまっているのにもかかわらず、熱心に知りたいと願っている真実を、人間がいかに発見するかを示せば、足ります。
人間は本当のことを、なかなか気づかないし、真実を避ける傾向があるけれども、真実の光が与えられます。また、真実は、隠されていても、熱心に知りたいと願えば、おのずから知ることができるものなのですね。そう、真実は必ず明らかにされるのです。