真実がアテネによってイオンに明らかにされます。
それで、この最後の場面で、すべてが明らかにされた段になって、アポロが敢えて登場して、真実を明かしたのではありません。アポロは隠れていて、代わりにアテネが真実を語ります。私どもが忘れてはならないのは、アポロが人間たちに真実を語る責任のある、預言の神であることです。しかし、アポロが自分の役目を果たせないのは、自分の罪を恥じているからです。ここで、『イオン』で、沈黙と罪が、アポロ神の側で結びつきます。『オイディプス王』の中では、沈黙と罪は人間の側にあります。『イオン』の中心主題は、神の沈黙に抗して人間が真実を求めて闘うことにあります。つまり、人間が独力で、何とか真実を見つけて、語らなくてはなりません。アポロは真実を語らないし、アポロがよく知る事実を明かしません。アポロはダンマリを決め込み、真っ赤なウソをつくことで、人間たちを欺きますし、自分のことを語る勇気もありません。自分の権力、自分の自由、自分の特権的立場を用いるのは、自分がしたことを隠すためです。これでは、アポロは反パレーシアです。
自分に都合の悪い真実を隠そうとするのは権力の常ですね。
「特定秘密法」はその危険に気が付きやすいのですが、「個人情報保護法」の時は、気が付きませんでした。
小泉純一郎が首相の時、「個人情報保護法」ができてから、ちょっと変でしたよね。クラス名簿がなくなり、電話連絡網がなくなりました。井上ひさしは、その危険にいち早く気づき、「天下の悪法」といって、警鐘を鳴らしていたことを、遅まきながら、最近知りました(『あてになる国の作り方』2002年 光文社)。
真実を知り、語るためには、それを隠そうとする権力との闘いが必要なのです。