イオンがアテネに来るのは、あまり気乗りしないものだったようです。
民主的な暮らしを素描してから、イオンは、継母のいる家族の暮らしの消極面について話します。その継母には、子どもがなく、息子がアテネの王位を継承することに、我慢しがたい思いを持っています。しかし、イオンは政治素描に戻って、権力者の生活を素描します。
イオン : …王であることに関して言えば、それは過大評価されます。王位は、愉快そうな仮面の裏に苦しみのある生活を隠しています。一時間でも恐れの中で暮らすことは、暗殺者がいるかどうか振り返りながらの暮らしで、それが天国なのでしょうか? そんな生活が幸福なのでしょうか? 普通の暮らしの幸せを私は望みます。ほしいのは王様の暮らしではありません。王様なら、自分の法廷を容疑者でいっぱいにしたいのでしょうし、死を恐れる正直者がお嫌いでしょう。お金持ちである喜びが、どんなものにも勝るのか教えてください。しかし、スキャンダルにまみれて暮らすことは、お金に諸手でしがみつき、心配に付きまとわれるのですから、私には何の魅力もございません。
「本物の幸せは、お金では買えない」ということですね。