昨晩、須賀敦子さんの「ダヴィデに」を取り上げた時に、須賀敦子さんが
「自分の孤独を確立しないかぎり、人生は始まらない」
と記していることを引用しましたでしょ。
「この『自分の孤独を確立する』って、どういうこと?」って、思った方いたんじゃないかしらね?
「孤独」と言われたら、どんなことを考えますかね。「寂しい」とか、「つらい」とか、「つまんない」と感じる場合が、多いのじゃないかしらね。須賀敦子さんはそれを「荒野」と呼びましたね。「荒野」ですと、お水はない、食べ物がない、日照りを隠れる場所もない。だから、人々を、「怖れさせ」る訳ですね。
でも、須賀敦子さんは、孤独は「荒野」ではない、とも言いますでしょ。それはどういうことかが大事になりますね。
孤独は英語では、3つの言い方があるんですね。alone アローン, lonliness ロンリネス, solitude ソリチュード です。aloneと言えば、映画「Home alone ホームアローン」がありますでしょ(上の写真は、主演のマコーレー君)。子どもがひとり家に取り残されて、そこでいろんなハプニングが起こる、笑える映画でしたよね。テレビで見た方もいるんじゃないかしらね。この「一人でいること」をaloneという訳ですね。それは良いものでも、悪いものでもない。「一人である」ことをaloneという訳ですね。
lonlinessは、この「一人であること」の属性のうち、「荒野」の部分を言うんですね。「寂しい」とか、「辛い」とか…。lonlinessは、lonelyという形容詞から派生してできた名詞ですから、lonelyという形容詞の意味を受け継いでます。研究社の『リーダース英和辞典第2版』でlonelyを引きますと、「寂しい」、「心細い」、「もの悲しい」などの訳語が出てきます。
それに対して、solitudeは、「一人であること」の属性のうち、「荒野」でない部分を言うんですね。これについて、適切な訳語を挙げている英和辞典は、ほぼないに等しい。それは英英辞典でも同じですね。その中でも比較的いいのが、東京書籍の『アドバンスト フェイバリット 英和辞典』です。ここには註が載ってましてね、「特に孤独を楽しんでいる場合に用いる」とあります。そうなんですよね。自分の好きな音楽、好きな絵を静かに鑑賞したいとき、人は1人になりますでしょ。あるいは、自分の考えをまとめてみたいとき、人は1人になりますでしょ。その時の1人の属性を、楽しんでいる感じをsolitudeと言うんですね。適当な訳語がないので、私は、solitudeは「一人の豊かさ」と訳すようにしています。1人が豊かな時間だからです。
「自分の孤独を確立する」とは、このsolitudeを確立することです。言葉を換えれば、「自分の内なる声」に気付くことなんですね。「自分の内なる声」、囁きです。小さな声です。ですから雑音のない静かな場所を選んだ方が良いですね。呼吸も深くゆっくりした方が良い。そうして、意識を外ではなくて、内側に持って行く。しかも、あれやこれやを考えない。「妄想(もうぞう)しない」と雲水でしたら言うでしょう。すると、不思議なことですが、内側から、「自分の内なる声」がしますよ。この「内なる声」と対話することを、内省、という訳ですね。
須賀敦子さんは、自分が見つけた「内なる声」を表現するのに相応しい「文体」を、改めて見つけることができて、作家になったわけですね。いろいろな運動をやってきた時には、出来なかった、「本当に自分を表現する」仕事、「人は何と言うか分からなくても、自分が納得できる」仕事が、こうしてできるようになった。それを須賀敦子さんは「人生が始まる」という訳ですね。
あなたも、ご自分の「内なる声」を見つけて、ご自分の「人生を始め」て下さいね。
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