『イワンのばか』。読んだことはなくても、その名前くらいは知っている人が多いのではないでしょうか? トルストイの民話で、岩波文庫に入っています。私も大学生の時に、トルストイの民話集が好きで、繰り返し読んだことがあります。その一つが『イワンのばか』でした。
イワンは、4人兄弟です。軍人の長男セミョーン、商人で布袋腹の次男タラース、そして、農家の三男イワン、さらに妹の聾唖のマルタです。アベ・詐欺師ちゃんと悪魔の仲間たちみたいな、悪魔が、兄弟仲を引き裂くために、小悪魔をそれぞれに遣わします。名誉が全てのセミョーンも、お金が全てのタラースも、小悪魔に騙されて、没落してしまいます。しかし、イワンだけは、小悪魔たちはいくらやっても騙せません。逆に、イワンが小悪魔を捕まえてしまいます。しかし、バカでも心は優しいイワンは、小悪魔たちを逃がしてやります。その時、イワンは「イエス様の恵みがおまえにもあるように」と言って逃がします。すると、2度と小悪魔たちはイワンの前に姿を現すことはなかったと言いますね。地中に潜ったから。つまり、小悪魔たちは死んだんです。しかも、イワンの口癖は「いいよ」です。相手を否定せず、肯定します。また、アベ・詐欺師ちゃんと悪魔の仲間たちのような、ウソを平然と言って、人を傷つけることがありません。さらには、イワンは、額に汗して、手にはタコができるほど畑で働くことを何よりも大事にします。
このバカなイワンのような人を、「聖なる愚者」Holy Fool ホーリー・フールと言います。「馬鹿」「損」を喜んでやるからです。世間の人たちは、そういう人を見れば「馬鹿だね~」と言いますもんね。そして、自分が損しないように、と、小賢しく振る舞うものでしょ。
イワンは、小難しいことを言わずに、矢内原忠雄先生や井上ひさしさんのように、単純です。分かり易いことを大事にします。しかし、それだけじゃぁ、ない。
イワンは、この「馬鹿」、この「損」を通して、「この世の価値を超越する価値」へと、私どもを導いてくれんですね。チャップリンの映画や藤山寛美さんの演劇を見て、あるいは、寅さんや「釣りバカ日誌」の浜ちゃんを見て、心洗われる気持ちになるのは、「この世の価値を超越する価値」を感じるからでしょう。心と心が響き合う温もりだったり、悦びだったり…。
バカに徹していきたいものですね。
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