リスト「十字架の道行き」を実演で聴ける日が訪れるとは、つい先日まで思いもしなかった。
このポピュラーとは言い難い、しかし、本物の感動の傑作を、しかも、超一流の演奏家で聴ける、というのは、ラ・フォル・ジュルネならではの好企画と呼べるだろう。
ヤーン=エイク・トゥルヴェの指揮の下、コーラスは精鋭13名からなる
ヴォックス・クラマンティス。
全く虚飾のない清らかな発声は、上辺の美しさよりは内面性を志向し、祈りの痛切さは比類ない。
イエスを担当するバリトン独唱も、本質だけを捉えて無駄がなく、イエスの悲痛を伝えて止まない。
ジャン=クロード・ペヌティエのピアノは神の域。
昼間に聴いたモーツァルトも素晴らしかったのだけど、リストでは作品に同化するような斬り込み方。その入魂ぶりが半端でなく、まるで、目の前でイエスの受難を体験するような深い衝撃を与えられた。否、彼は確実にそこで追体験している。
今日の4演目の締め括りが、「十字架の道行き」で良かった。あまりの感動に、もう暫く何も聴きたくないから。
ところで、こんなに凄い演奏を聴いてしまうと、自分で指揮するときに、つまらない演奏はできない。大コーラスではなく、精鋭を揃えたアンサンブルで臨むとしよう。
追記
この記事を書き終えてから気付いたのだが、歌手の数が13名だったということに意味がありそうだ。
バリトンの1人がイエスであるとすると、残りは12人の弟子たち。
つまり、最後の晩餐に居合わせた人の数ということになる。
うーん、深い。