AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
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己の正気度を試せ!

2012年11月15日 | ルルイエ異本
いやいや、また読むクトゥルー本がなくなっちまって、とうとうこんなもんに手を出してしまった。
表紙からしてなんかヤバい方向に行ったのかと誤解を受けるかもしれないが、これもレッキとしたクトゥルー読み物の一種でエロマンガではない。

『みなせゼミの名状し難き夏休み』という、「クトゥルフ神話TRPG」のリプレイ本である。
といっても、なんのこっちゃわからんかと思われますが、実は私もこの手の分野には携わったことがない。 
「TRPG」とは、“テーブル・トークRPG”のことで、4~5人の人間同士が実際卓を囲って競うアナログなロール・プレイング・ゲームのことらしい。
「クトゥルフ神話TRPG」の最大の特徴として、ライフ値とかの代わりに“正気度”(SAN値とも)というものがあり、神話的恐怖に直面したり、宇宙的恐怖の真理を理解してしまう度に<正気度>ロールを行わなくてはならず、出た目の数によってその“正気度”が失われていくといった具合だ。
一度の喪失量の度合いによっては一時的狂気に陥ったり、<クトゥルフ神話>ポイントが加算されたりするところなんかは、実にクトゥルー的で興味深い。

で、本書はTRPGのシナリオライターである著者が、ゲームを進行していく<キーパー>(ゲーム機でいうところのCPU?)となってゲームを実際にプレイしている現場の実施模様や会話を記録し、ゲームの進め方やルール、シナリオの作り方、プレイテクニック、クトゥルフ神話用語などを解説していくという趣旨のものであった。
だから、ちくいちコロコロ・・・って、サイコロをころがさないと話が進まないので、テンポも悪いし、もちろん緊張感もクソもない。
まぁ、もともと読み手に宇宙的恐怖を体感させるのが目的のテキストじゃないから仕方ないけど。
しかし、このTRPGってのは、<キーパー>のさじ加減次第みたいなところがあって、なんかシナリオライターの自己満的なきらいがあって、読んでてこういったゲームは私の肌には合わないようだ。まぁゲーム機でもRPGもんは辛気臭くて昔からやったためしがない。


現場では実際このようなダイスを振ってプレイされているのかと思うと、心騒がされるものがある。


本書には、計3話のクトゥルフ神話TRPGのリプレイが収録されており、舞台はいずれも日本なので、日本の民俗学とクトゥルフ神話を巧く掛け合わせたちょっとしたジャパネスク・クトゥルフ・ストーリーを味わうことができる。

第一話「水底の早贄」では、ラムジー・キャンベルが創作した“グラーキ”ものを題材に、四国は高知県のダム湖を舞台にしてクトゥルフ神話を展開させており、日本ではグラーキもんは未訳なので、ちょっとはその雰囲気を窺い知ることができる。
『グラーキの黙示録』や、エジプトの神官が使用していたという「タグ・クラトゥアの逆角度」なる未知の小道具なども飛び出しなかなか雰囲気を盛り上げてくれている。
ま、でもこの話の概要からして、キャンベルの原作も単なるゾンビものなのかなと、グラーキものに対する期待感が半減してもた。



第2話「湖あふれる海」は、福岡の港町を舞台にした“ディープ・ワンズ”もので、題材としてはありふれているものだから、展開も大体予想がつく。
ただ、『太平記』に言及されているという“安曇磯良”がクトゥルフの落とし仔であるという設定にして、日本神話とクトゥルフ神話とを巧く掛け合わせているところはおもしろかった。

第3話「仮面の送り火」では、秋田県の田舎町でキザイア・メイスン(ここではケザイア・メーソンと表記)というアーカムの魔女(ラヴクラフトの『魔女の家の夢』参照)を蘇らせて暗躍させるといったマイナー路線で攻めてくるところは大変興味をそそられた。
秋田の鹿島信仰と結びついた“ういか様”と呼ばれる巨大藁人形が実はニャルラトテップの化身で、最終的にはニャルラトテップの第二形態である“血塗られた舌の神”に変貌するという展開はおもしろかったが、しょうもない小道具であっけなく倒されるのには尻つぼみ感が否めなかった。まぁでもリプレイ本にこれ以上の宇宙的恐怖を求めるのは野暮というものである。

まぁ私みたいなものぐさ人間の場合、ゲームのシナリオそのものを読むのが一番だと思うのだが、ヤフオクでもシナリオだけを出品してるのを見かけるけど、高価でなかなかな手が出せない。
この著者のHPをチラっと覗いてみたんだけど、どうやらアニオタ系の人種のようで、まぁ実はTRPGを入り口にクトゥルー神話にハマっていく人も多く、この方面の人らってやっぱ萌えアニメ好きの人種が多いのかなって。
実際近年の日本におけるクトゥルーブームはニャルラトテップをパロった萌え系アニメが要因であるようだし、ソッチ系の人ってもともと緻密な性格なのか、暗黒神話に対する造詣もハンパなく深くて、シナリオとか書かせたらすごい知識とセンスを発揮するのかもしれない。
本書の表紙も若干の色気というかエロを漂わせているが、著者によれば発行元である新紀元社側から挿絵で使うお色気サービスシーンは必ずひとつ盛り込むようにと要望されたらしい。
つまり企画側がそういう体質なんだろう。

今日の1曲:『唐変木のためのガイダンス』/ キリンジ

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