グレン・グールドのベートーヴェン・ピアノソナタ録音を聞く。
その自在なテンポ感、間の取り方、速弾きや遅弾きの妙を味わう。
グールドはバッハ弾きの手法をベートーヴェンにも応用している。
独自のアーティキュレーションで小刻みに奏でられる面白い演奏。
グールドのベートーヴェンは誰とも似ていない。
二人といない独自の演奏である。
ときどきひどく真っ当に弾くときがあって却ってドキドキする。
奇天烈なグールドからベートーヴェンらしい可憐な響きが聞こえるとき
貴重な音楽に触れた思いがするのである。
速いときは猛烈に弾き飛ばす。
遅いときは本人が満足するまで十二分に遅い。
これほど恣意的にテンポを動かすピアニストも少ない。
グールドの10代の頃のアイドルはアルチュール・シュナーベルだったという。
グールドはいわゆるベートーヴェン弾きではなかったが、
シュナーベルに私淑する一面もこの奇才にはあったのである。
モーツァルトのピアノソナタ全集を残しているグールドであるが
ベートーヴェンを全曲遺すには至らなかった。
グールドの異形のモーツァルトも議論を呼ぶ奇天烈演奏だが
ベートーヴェンも賛否の分かれる自由すぎる演奏である。
こんな人がクラシック界に居たこと自体一種の謎である。
言わばクラシックの真ん中でアウトサイダー芸術を開花させたようなものだ。
グールドの唸り声が時折聞こえるのも愉しいが
グールドの奇天烈さの裂け目から貌をのぞかせる
可憐なベートーヴェンの旋律が
聞き手の心に深く響いて来るのである。
好き好きに気ままに咲いた花たちの可憐な顔が時折見える
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