昨年の11月に,仙台市の24歳の男性が,インターネットの掲示板に自殺を予告し,その上で自分でカメラを設置し自殺の瞬間までの様子を中継しネット配信するという衝撃的な事件がありました。自らの死を映像にして伝えるという行為自体が,理解を超えたとてもショッキングな出来事で強い衝撃を受けたことを思い出します。
6日付の『孤族の国』のシリーズで,この事件が再度取り上げられていました。以下,記事の内容を抜粋して紹介します。
自殺した男性は,泣きながら「うつ病で休職中であること,大学時代の友人と離れて寂しいこと,容姿へのコンプレックス」を語り,それを視聴していた若者は,ひとごととは思えなくなり,「死ぬのはやめろ」と書き込み,朝まで中継につき合った。(この若者は24歳の学生で,突然大学に行けなくなりうつ病と診断され,自殺しようとしてもできず八方ふさがりの状態にあった)
翌日になると自殺をほのめかしながらも生きている男性に対して,「さっさと死ね」といった死をあおるようなネットの書き込みが増え,若者もばからしく思い同様の言葉を何度か書きこんだ。最後の映像を見ても現実感はなかったとのこと。その後,ネットには「あおったヤツは人殺し」という言葉があふれた。若者は,実際に人が亡くなったことを重く受け止めるようになった。その後,若者は自分の両親や大学の先生・友人に見守られ孤に陥る危機を脱しつつある。そして,自殺した男性は周りにいるそんな存在に気付けなくなっていたのではと考えるようになり,ネット漬けの生活から脱け出そうとしている。
自殺した男性は,上司の言葉によると 「ごく普通の職場の,ごく普通の青年。例年の倍以上の難関となった入社試験をくぐりぬけ,飲み会でも「がんばります」と明るく語る若者だった。ところが5月末に突然「調子が悪い」と休みを申し出たので,ゆっくり休むように伝え,親御さんとも連携してケアしていたつもりだった。」それにも関らず,自殺したことに対してショックを受けるとともに,「自殺をあおるサイトがあるなんて,理解できない。」と語ったとのこと。
事件の後,残された動画を見た若者(23歳,フリーター)は,「誰かにわかってほしい,かまってほしい。彼にとってその場所が,ネットだったんだ」と思った。この若者も,17歳の頃から生きる意味を見いだせずひきこもり,何度も死を考え,分かりあえる人を求めてネットをさまよった。そこで同じようにつらい人がたくさんいることを知り,少し救われたとのこと。
ネットに救いを求めたのに,ネットによって自分の存在を否定される。両刃の剣となるネット社会の怖さを痛感します。それでも,ネット社会の中に人とのつながりを求め,それによって救われている若者も数多くいるのではないかと思います。
しかしやはり,お互いに顔が見えない中でのつながりは本物とは言えず,そのつながりだけでは孤から脱出する力を得ることはできないように思います。現実の人間関係に目を向け,身の周りにいる人とのかかわりやつながりをつくっていくことで,現実に生きるための一歩を踏み出すことができるのではないかと思います。でも,そう思えるのは現実に生きている側に立っているからなのかもしれません。
孤族となる要因の一つに,人間だれしも持っている弱さがあるように思います。自分をあるがままに認め・受け入れ・理解してくれる人を周りに求めるものの,身近にそういう人がいないと思いこみ外との関係を断ってしまう。自分を常に出発点として,相手には受け入れることのみを求めてしまう。相手を受け入れることでつくっていく人と人とのかかわりやつながりを構築できない弱さ。その弱さを外に出せないが故に内へ内へと自分を閉じ込めてしまうのではないかと思います。
この弱さを,周りにいる人が人間の持っている弱さとして理解し受け止めることが大切なのではないかと思います。かかわる力やつながる力を大上段に掲げ,内の世界から外の世界へ踏み出せと言っても,孤の世界にいる人の心には届かないと思います。
弱い心によりそって共に生きてくれる人が周りに多くいることで,孤族として閉じて生きるのではなく,現実に自らを開いて生きることができるようになっていくのではないかと思います。お互いの生を温かく見守ることのできる,温もりの在る社会でありたいものです。
自殺者がここ13年間,3万人を超える数にあるとのこと。単純に計算しても,13年間の自殺者の総数は,39万人もいるのです。尊い命が,これだけ失われているのです。愛する人に死なれ深い悲しみを背負う,残された遺族の方の数は,これをはるかに超えた数になることと思います。
最近,人口が減っているのに日本全体の世帯数が増えているとのこと。これは,一人暮らしの世帯数が増えていることと関係があります。配偶者との死別と共に一人で生きるライフスタイルを選ぶ未婚者の数の増加がその要因となっています。
新聞の社説では,「死別や離別で誰もが『孤族』になる時代を迎えている。個人をしっかり支えるための制度と社会づくりが必要であり,この現実を共有し,対策を実行に移すときだ。」と主張しています。
脈絡のないブログになってしまいましたが,
一人一人のかけがえのない命が,大切にされる国であり,社会でありたいものです。