新聞の天声人語で,「現代学生百人一首」の紹介がありましたので,その中に取り上げられている作品を紹介します。寄せられた作品は,6万余首で,その中から百首が入選作品となるようです。取り上げられたどの作品からも,みずみずしい若い感性を感じます。その若さをまっすぐに受け止めながら,自らの内にもみずみずしい感性を取り戻していきたいと思いました。
○ 先生が ニコっとして言う 「がんばるな」 私の中で 「がんばれ」になる <高3女子>
信頼の糸でしっかりとつながり合った,先生の笑顔とその笑顔にうなずく生徒の姿が見えるようです。先生の笑顔と「がんばるな」の言葉の内に,そんなに力を入れずに気持ちを楽にして頑張れというメッセージをよみとったのでしょうか。受け止める子どもが,前向きにそして能動的になる温かいメッセージを送ることのできる教師であり,大人で在りたいものです。
○ 「頑張って」 背中に掛かる その言葉 時に重荷に 時に翼に <高1女子>
同じ投げかけられる言葉であっても,その時の心の状態によっては負担にもなり,励ましにもなるのですね。若いからこそ,なおさら心にストレートに響く言葉になるのだと思います。その時の状況に応じて,相手の立場に配慮した言葉を掛けたいものです。揺れ動く心の向きが翼になるような言葉をかけたいものです。
○ 旧友が 声変わりして ふと気づく 違った道を 歩む僕らに <中3男子>
高校への進学を目の前にして,中学3年は将来のことを考え踏み出す,大きな節目の時期と言えると思います。子どもから大人へと成長する段階でもあります。これまで同じように同じ道を歩いてきた友だちとも,これから先はそれぞれの考えるそれぞれの未来の道に沿って歩き出すのだということを実感したのでしょうか。中3の頃の自分の気持ちを思い出します。
○ 夢語る 友の横顔 まぶしくて 隣にいるのに 遠く思える <高3女子>
中3以上に大きな節目の時が,高3の時代かもしれません。進学か就職か,具体的な進路の選択をし自分の人生となる一歩を踏み出さなければならないのですから。隣にいる友は,どんな夢を語ったのでしょうか。夢を語る友の顔を見つめながら,それぞれの前に広がる未来の道が見えてきたのではないでしょうか。重なり合うことのないそれぞれの道が……。
○ そばをうつ 父の姿を 眺めてる 母の視線は どこかあたたか <高2女子>
母の視線のあたたかさを感じることができるのですから,この子も将来はあたたかい視線とハートを持ったすてきな母となり,妻となるのではないでしょうか。言葉を交わさなくとも夫婦としての信頼関係を築きあげている父と母の姿を通して,夫婦の在り方や家族の在り方をあたたかく学んでいるような気がします。
○ 「アレ取って」 以心伝心 「はい,どうぞ」 25年の 夫婦の絆 <高3女子>
前の短歌と同様,この子も,将来は夫婦の絆を大切にする良き妻・良き母となっていくことと思います。この歌のように以心伝心に到達する夫婦でありたいものです。わが身を振り返ると依存することの多い以心伝心ではなかったかと反省する面があります。お互いに気持ちのよい以心伝心となる努力の必要性を感じています。25年の絆は過ぎているのですから…。
○ ひとり見る 夏の夕日の うつくしさ 今日なら 母に謝れるはず <高1女子>
親子の関係だからこそ,素直に言いだせないこともあるのでは……。美しいものを見ると自分の内側まできれいに洗ってもらったような感じになる時があります。この子も謝りの言葉を言えずに悶々としていたのだと思います。その悶々した思いが美しい夕日を見ている中で,消えていったのではないかと思います。謝る言葉も,まっすぐに母の心に届いたことと思います。
○ 就活で 不況の闇に 呑み込まれ 嵐の波間を 漂う九月 <高3男子>
現在の時点で,大卒の就職内定率は最悪の68.8%で,高卒の内定率は70.6%だそうです。まさにこの歌のように,厳しい不況の闇に呑み込まれ,どこに就職先が見つかるかわからないまま嵐の波間を漂っている状況にあるのではないかと思います。就職を希望する子どもたちにとって,社会へ踏み出す一歩が恵まれた就職環境となるよう,国や企業に切望します。
○ 泣きながら 内定決まり 一番に 電話したのは 大切な祖母 <高3女子>
厳しい就職環境だからこそ,なおさら内定が決まった時は涙がでるほどうれしかったのだと思います。そのうれしさを一番に祖母に電話して伝えたのは,常日頃から孫の自分を気遣いかわいがってくれる祖母の愛を感じていたからなのだと思います。だからこそ大切な祖母なのですね。生まれた時からずうっと見守ってきた祖母と作者とのあたたかい絆が見えてきます。
○ おじいちゃん あんまりゆだん していると 王手しちゃうよ まったなしだよ <小2女子>
天声人語の本文では,この歌が最後に置かれ,「冬の日だまりのような暖かさ。」という言葉で締めくってあります。全く同感です。おじいちゃんと孫との将棋のほほえましい対局が,映像として見えてくるようです。この対局の場所も,冬の日だまりとなっている暖かく明るい場所だったのではないかと思います。ゆだんしたように見せて王手を待っているのが,おじいちゃんのふところの深さかもしれません。あまりに孫がかわいいので,ついついほほがゆるみゆだんしているといった姿も想像できますが……。
この若い感性に対抗するために,私も今日から一日一首を心がけたいと思っています。