入院中に在庫記事が無くなりました。2008年の文章です。我ながら、今書いている文章より面白いです。写真を紛失したのが残念です。
初めて佃島に行った日。佃小橋から船溜まりの写真を撮っていたら、奥の方が騒がしい。それに消防車が停まっている。声がするマンション群の運河の方へ行ってみると、対岸の住吉神社下を流れている運河の水面近くの段上に、引き綱で繋がれた犬がいる。引き綱を持った女性が上から心配そうに覗いていて、周りに数人の消防士がいる。
こちら側から見ている十数人の野次馬の中に、ひと際大きな声で喋っているおばちゃんが二人いた。しかも大阪弁である。どうして「べらんめえ」の東京下町に大阪のおばちゃんがいるのか謎であるが、ここからはその二人のおばちゃんの実況でお伝えする。狭い運河である。勿論、おばちゃんの声は全て明瞭に、対岸の飼い主と消防士達にも聞こえている。
「なんであんなとこに落ちたんやろ?」
「住吉さんにお参りしてはったんやろか?」
「それやったらご利益あらへんがな。犬落としたらあかんで住吉さん」
「そないな事言うとったらバチ当るで」
「それにしてもぎょうさん消防の人が来てはるがな。誰が呼んだんやろ?『犬助けてー』言うたんやろか?東京の消防は親切やな」
「市民に投書とかされるから、呼ばれたら来なあかんねん」
「それにしても、犬の為にぎょうさん来てるがな。今日、暇なんやろか?」
「大きな声で言うたら聞こえるがな」
「あの消防の兄ちゃん、さっきから降りたまんま、何もしてへんで。餌やったりして遊んどるがな」
「あの兄ちゃん犬怖いんとちゃうか?」
「犬怖い人が助けに行ってどないすんねん」
「いや、ほんまに怖いんやで。よう触らんもん」
「あの人若いから行かされたんちゃうか?上の人に言われて」
「餌やって馴れさせとるんやわ」
「そないな悠長な事しとったら明日が来るで」
「女のひとが持っとる綱で引っ張り上げたらええやん」
「首締まってまうがな。住吉さんで犬殺したらあかんやろ」
「そやけどこのままやったら埒あかんがな。消防が持っとる網で掬うたらどうやろ?」
「掬うて、魚やあるまいし。犬が暴れて網に入らんやろ」
「ほしたら何の為に網持って来てんやろ?」
「兄ちゃん、後ろから抱きいな」
「噛まれるのが怖いんやて」
「ほれ、今や!・・・ああ、あかん。よう抱かんわ。根性ないなあ」
「あ、もう一人降りて行かはったわ。上の人も痺れ切らしたんや」
「あの兄ちゃん、あんなんで消防勤まるんかいな。後で上の人に怒られるで」
「消防と犬はあんまり関係ないんちゃうか。今度のひとは犬大丈夫みたいやな」
「あたりまえや。犬怖いひとが二人も行ってどないするねん」
「上の人、行かせる前にちゃんと犬怖わないか確かめたんやろか? あ、抱かはったわ。犬も抵抗せえへんがな」
「やっぱりベテランや、うまいな。梯子も上手に登らはるわ。犬も暴れんと賢いがな。兄ちゃんより偉いで」
「そないにボロクソ言うたらあかんわ。兄ちゃんこっち見とるで」
「兄ちゃん梯子登れるやろか」
「ほんまに怒られるで」
「良かった、良かった。女のひとも安堵したわ。もう犬落としたらあかんでー」
「・・・あー!うちらこなん事しとったらあかんのや。早よ行かな!」
「そや!急がな」
「そやけど、東京ておもろいとこやな」
パタパタとサンダルの音をさせて、二人のおばちゃんは去って行った。残された我々野次馬達は、初対面にもかかわらず、全員顔を見合わせて大笑いした。
大阪のおばちゃん恐るべし。二人揃うと漫才が出来る。
でも本当なら毒になる言葉も、なんとなくほんわかした気分にさせてくれるのが関西のおばちゃんの魅力だと思います。
ま、関西人総じての行動基準は「受けを狙う、笑いを取る」ですので・・・・
街で全く見ず知らずの人にいきなり「おのれ、親の仇、覚悟!!」などと言って切り掛かる真似をしても、関西人なら「やられたあ!無念」などを返してくれます。
これを東京あたりでやったら、冗談は通じず本当の喧嘩になるか110番事案でしょう。笑
口の悪さと裏返しの懐の深さ、これぞ関西人の関西人たるところかと。
そのとおりですよね。
あれ以来、東京下町で大阪のおばちゃんに逢えません。寂しいです。
後で分かったんですが、佃島は、関東移封になった徳川家康について来た大阪の漁師の子孫の町です。住吉神社もその縁でここに在ります。
あの大阪のおばちゃんは、親戚に遊びに来たんじゃないでしょうか?400年以上続く家系で、、
しらんけど。