荒川三歩

東京下町を自転車で散策しています。

「鰹ぶし 大もり」

2024年10月15日 | 散文

立石駅前の仮設歩道のフェンスに、ここの店が載っていました。

店の存在はずっと前から知っていました。専門店街や市場ならいざ知らず、街中の鰹節専門店なんて他で見たことありません。気になっていました。

さっきから店頭で働いている人がいます。思い切って声を掛けます。

「さっき立石駅前でこの店の絵を見たのでやって来ました」

「ああ、近所に住んでいる人が描いたものなの。その人がこの写真を撮ったの。銀行の人がやって来て『店の絵を出して良いですか』と言ってね」「ああ、それで『きらぼし銀行』の名前が入っているんですね」

質問します。「この鰹節削り器懐かしいです」「これは小学校で教えているのよ。私が。子供はこんな道具を知らないからね」

「儲かっていますか?」口を歪めて「儲かるわけないじゃない」「だって独占企業みたいなもんでしょう?周辺の客を独占できるじゃないですか」「何言ってるのよ。今は料理屋以外鰹節なんか使わないわよ」「『だしの素』かなんかですかね?」「家で出汁を作らなくなったわね」「最近出汁の自販機が街に有りますね」「ああ、あれねえ...出汁は生ものだから保存が利かないのよ。保存が利かないから若い人は出汁を作らないのよ」

こんな寂しい話でした。


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