駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

日曜日には旨い物を

2009年01月26日 | 身辺記
 日曜日なのと、誰かの誕生月なので地域では知る人ぞ知るらしい海辺のフレンチレストランへ出かけた。60km位ある。一時間強で着くつもりだったが、例によって奥方の出足が遅い。いつも30分くらい身支度に掛かるので、早めに声を掛けるのだが10分は遅れる。あきらめの心境とは言っても、待たされるのは楽しくない。
 初めての所なので、余裕を持って着きたかったのだが、日曜のせいか車の流れはあまりスムースでない。運良く最終日曜日で、はかま満緒の日曜喫茶室をやっていたので、聞きながら走る。聖路加の日野原先生が出てきて朝昼粗食が長寿の秘訣などと生憎のことを話している。予約時間を10分ばかり過ぎて近傍まで到着。確か、このあたりのはずと海岸通りを目を皿にして進むが、見つからない。明らかに通り過ぎたので、電話を掛ける。どうも100mくらい行き過ぎたようで、マダムの説明通り、釣具屋の向かいの白い建物と唱えながら戻る。なるほどこれか、看板が出ていない。入り口に小さくS・・・と書いてあるだけだ。知らない人にはレストランとはわからないなあ。
 予約のみのせいか空いている。我々を含めて2組だけだ。目の前が海で明るい。風が強く僅かに白波が立っている。マダムはどうも小学校の先生風で、きっちり丁寧だが、あんまりフランス風の洒落た感じはない。
 前菜に鯵のマリネ、山鳥とフォアグラのパテ。スープは蕪のポタージュ。メインはムツと蝦夷鹿。デザートはミカンのアイスクリームとプリン(本格本式)。全て美味しくコーヒーと紅茶で締める。なんというか本格的で軽くない、しっかりした調理で*(星一つ)は付く。少しコートドールに似ている。お値段は三分の二。最後に御主人のコックがご深みのあるバリトンで御挨拶、五十がらみ中肉中背でいかにも職人風。帽子は勿論、上っ張り前掛けズボンがぱりっとしてほとんど汚れていない。
 「また来ますよ」。「ありがとうございます」。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

御輿が肩に食い込む医師不足

2009年01月26日 | 医療
 昨日は今年初めての地域の胃腸疾患勉強会があった。会終了後ささやかな立食パーティがあり、総合病院の部長クラスと懇談した。「いやあ、先生逃げ遅れた」。痛ましい火災事故のあとで、表現にドキっとしたが、病院を辞めるタイミングを失したということらしい。もはや彼の勤める公的総合病院は沈み行く泥船で、総合病院の体をなさなくなりつつあると言う。
 「開業の先生前に外来なんて言うたらなんなんですけど、外来なんか減らしてもろても、たいして楽にならんですわ」。「私らが研修医だった20年前はこんなん平気だったんですけど、今の若いのんはすぐ文句を言ってきますからね。24時間対応を5人で回すのはもう限界ですわ」。「そうか、そんなんか。えらいこっちゃ」。と40年前研修医だったS先生はびっくりしている。幸い、私がよく患者さんをお願いする総合病院は機を見るに敏な院長のおかげか人員が確保され、きちんと機能している。山一つ向こう、川一つ向こうは大変のようだ。
 産科小児科は患者への影響が目に見えやすく、医師不足が騒がれているが、本当は総合病院の屋台骨の内科医(一人前)が払底してきているのだ。重症患者を抱えての24時間対応、会議、教育、患者のクレーム、事務長から赤字の話・・・、逃げ出して町医者になった方が身のためと一人前の医者がいつの間にか居なくなり、気が付くと独立の準備が不十分で残った部長副部長クラスにずっしり負担がかかっている。ひどいところは部長が居なくなり、呼吸器科のない病院、腎臓内科のない病院・・・が続出している。
 もう新しい研修医制度が始まって5年になろうとしている。第一期生はそろそろ一人前になっているはずだが、「一体、どこへ行ってしまったんでしょうかね」。と顔を見合わせ異口同音に訝った。
 どうも自由競争の弊害がもろに出てきたようだ。自分の時間がもてて、そこそこ収入がある診療科、子弟の教育環境に恵まれ楽しめる大都会の近傍、ブランド大学医学部大学病院への偏在。自由であれば自らを利する動きに走るのが人間なのだろうか。勿論原因はこれだけではないが、こうした動きが大きな要因なのは間違いない。
 厚労省の施策のようにただ医者の数を増やしても、うまくゆくとは思えない。それに医者が一人前になるには十年かかる。なんだかオバマの知恵までを借りたくなる。
 それが簡単に良いこととは言えないが人生の断面に、しばらく前までは教授が見込んだ男を呼んで「悪いがおまえ斜里へ行ってくれ」。などと言うことがあった。教授の命で僻地へ赴任、何十年の風雪の年月を振り返るY先生の皺深い横顔、忘れられない。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする