駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

「あっそう」と言いながら

2015年11月03日 | 診療

                           

「先生、私死にそう」という訴えに「あっ、そう」と返事をすれば、初診では問題になるかも知れない。しかし十年以上、年に三回も四回もその台詞を聞かされていると、「あっ、そう」と言いたくもなる。患者さんの方も、「あっ、そう」と言われようとひるむ様子もなく心に貯めてきた心配事は事細かに全部話されるから何のことはない。

 Tさんは昔の人にしては大柄で丸顔にいつも綺麗にお化粧されている。後期高齢者と言ってもお婆さんの雰囲気はなく、奥様と言った感じがする。ざあます調で、看護師や受付にはちょっとときつい。Tさんは結局、私の「大丈夫ですよ」が聞きたいのだ。

 しかし、先日受診された時には、まじまじと顔を見させて頂きカルテの年齢も見て「八十過ぎられましたから、分かりませんね」と申し上げた。別に、がっかりする風でもなく「そうなんですよ」とひとしきり話され、「主人なんかもうすぐですよ」と旦那をやり玉に挙げてお帰りになった。まあ、こうして肺がんだと騒ぎ、検査で異常なく暫く大人しくなると次は胃がんだと騒ぎでやって来てもう十年、認知も殆どなく年齢よりも若く見え元気で、何なんだろうと思う。

 それでもいつかは何かあるだろう、以外に冷静に受け止められる感じもする。「先生、辞められると困るから頑張って」と言われながら、大学では習わなかった患者を診ることを実感する。しかし、まじ何時まで続けられるだろうかと思案投げ首だ。

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