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駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

ポイント オブ ノーリターン

2018年10月02日 | 医療

          

 随分たくさんの往診をしてきた。在宅で看取った患者さんは二百数十人になる。独りで切り盛りしている総合診療内科としては多い方だろう。長く往診することになる患者さんは脳血管疾患の方が多い。十年寝たきりも珍しくない。これに対して癌末期で往診になった患者さんは半年持つことは少なく、大抵数週間で亡くなる。今更ながら癌は恐ろしい病気だと思う。

 短い在宅期間で亡くなるのはがんが進行しているからで、今では早期に見つかれば五年生存をクリアするのは難しいことではなく、治癒して天寿を全うされる方も多い。実臨床の印象では癌は進行の程度で全く違う病気ではないかと感じる。勿論、早期であっても癌腫によっては個体によってははかばかしくない経過をたどることもあるし、進行していても五年クリアされる方も居るから、必ずという訳ではないが、まあポイントオブノーリターンを越えると一年以内に死に至る病なのは今でも変わらない。

 自分が平素見ていた患者さんはともかく、末期で自宅で最期を希望され総合病院から受け入れた患者さんは、経過が短くうまく患者医師関係が築けないうちに亡くなることも多く、不全感が残ってしまう。家族ともしっくりいかないことがあり難しい。正直、亡くなった後に挨拶もなく後味が悪いこともある。半径数キロの中にそうして看取った患者さんの家が点在しており、車で通り過ぎるとあの人と色々思い出すこともある。よく病気よりも病人を診ろと言われるが、それは患者家族と医師看護師の双方に言えることで、心掛けていてもいつもできることではない。ある程度の時間が必要で、優しい言葉と言うよりも、何気ない世間話が心を開くことも多いように感ずる

 本庶佑先生がノーベル医学賞を受賞された。噂を聞いていたのでよかったと思った。先生の発見により開発されたオプシーボがポイントオブノーリターンの癌患者さんを引き戻せるかどうか、臨床研究の結果に注目している。しかしまあ、現実の問題としてはとても高価な薬なので、医療を越えた社会的な問題も考える必要が出てくるだろう。

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