駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

大正の薫り

2010年12月22日 | 人生

 明治と昭和に挟まれた大正、それは母の生れ育った時代。子供の頃には遙か遠い昔の様な気がしていた。しかし還暦を過ぎて六十年の時を測る物差しを手にした今、百年の昔もさほど遠い昔とは感じなくなった。

 記憶は本箱の本のようなもので、昔のことだから奥に入って中々取りだせないというわけではなく、45年前に買った本も昨日買った本も同じようにすぐ手に取ることができる。むしろ二十歳の春の方が還暦の春よりも鮮やかに思い出される。

 生まれる前の大正の記憶があるわけでないが、なんとなく思い出すことができる。父母の言葉、写真、文学、歌俳句など限りない手掛かりがあり、手触りがある。

 残念ながら誠に文化歴史に不案内で、片片の知識しか持ち合わせないが、どういうものか此の頃寒い夜に、やがて百年の昔になる大正時代を思い描くことしきりである。ちょうど草田男が明治を詠んだように、私どもには遠くなった大正が懐かしいのかもしれない。

 山国の虚空日わたる冬至かな      蛇笏

 万古不易と懐かしく思い遺ることはできるのだが、日わたる下界の風物心情は、九十余年の時を隔てて、いささか変わった気配がある。

 

 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夫婦ふうふう | トップ | 患者さんの予想 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (柳居子)
2010-12-22 12:21:42
愛知県犬山に名鉄の関連文化事業として『明治村』と言う施設がありますが、毎年百万人を越える入場者が、近年は三分の一とか四分の一と言う数まで激減しました。明治にNostalgiaを感得する人が、皆無になると致し方のない事なのでしょう。最近は見せるだけではなく 明治を体験するというシチュエーションを作って入場数が増えてきているようです。


草田男は『降る雪や 明治・・・・』の句を昭和六年に作句しています。
返信する
そうなんです (arz2bee)
2010-12-22 19:46:47
 草田男の「降る雪や・・」は戦後の句のようですが実は戦前に詠まれていますね。そして草田男には明治の記憶があるのです。
 ですからこういう引用は少し筋違いかもしれません。でもまあ気持ちとしては理解できると思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

人生」カテゴリの最新記事