参照記事8/28(日) 15:01京都新聞社
京都市バス
京都市バス前方にあるエアコンの送風口(右上)
2・1メートルの高さにあり、乗客が通路から手を伸ばして風向を変えようとしても届かない場合がある
京都市バスの運転席横にあるエアコンの調整装置。ハンドル右下にあるスイッチで設定温度や風量を調整する
最近、京都市バスに乗っていて「暑い」と感じることはないだろうか。京都新聞の双方向型報道「読者に応える」に、「市バスのエアコンの効きが悪いように思う」との相談が寄せられた。調べると、気のせいではなく、本当に冷房効果は低下していた。背景には新型コロナウイルスやバリアフリーへの対応があった。
■送風口に手が届かない
声を寄せたのは左京区在住の50代女性会社員。通勤客で混雑した際は特に暑いという。市バスの送風口は、両サイドの天井近くにある。「窓の上にある送風口で風向を調整しようにも手が届かない。一体、どうしたらよいのでしょうか」と悩んでいた。
京都市交通局によると、「暑い」という苦情は多くはないが、複数寄せられている。新型コロナウイルス対策による換気強化で、窓を開けて走行しているのが理由の一つという。さらにコロナ禍の始まった2020年度以降の更新車両(約100台)は従来2基だった換気扇を3基に増強しており、エアコンの効き目はより低下している。
乗客の声に対応する自動車部運輸課は「設定温度の基準はなく、運転手の判断。現在はエアコンを強めに設定するよう、運転手に指導している」とし、暑い時はこれまでから「お客様自身で送風口を調整するか、運転手に言ってほしい」とお願いしているという。
しかし相談者は、送風口に手が届かないと話していた。車両担当の自動車部技術課にも連絡し、車庫のある梅津営業所(右京区)で確かめてみた。メジャーで測ると車両前方の送風口は床から2・1メートルの高さにあり、身長168センチの記者が通路から手を伸ばしても、窓際の高い位置には届かない。座席部分から背伸びしてようやく触れられる高さだった。朝田政宏課長は「これでは届きませんね」とぽつり。一方、後方は床が高いため160~170センチの高さとなり、通路からも風向を変えることができた。
■乗客自身で工夫できる余地は?
「以前の車両はもっと送風口が低かったんです」と朝田課長。なぜ乗客にとって不便にも思える車両に変えたのか。それにも理由があった。
交通局は車いす利用者や高齢者、妊婦、子どもが乗降しやすくするため、00年度から低床式車両への更新を始め、今では全車両が低床式になった。その結果、送風口の位置が相対的に高くなり、乗客の手で調整することが難しくなってしまったのだ。
乗客自身で工夫できる余地は残っているのか。市バスの主力車種「エルガ」を製造する大手メーカー「いすゞ自動車」に聞くと、エルガには家庭向けの80~90畳用に相当するエアコン能力を搭載している、という。車内面積で比べれば約6倍の冷却能力を有することになる。
広報グループは「窓の大きいバスは直射日光が入りやすく、乗降時のドア開閉で冷気が逃げやすいため、能力を上げている」というが、「換気効果を優先すれば、空調効果は落ちてしまう」とも。コロナ対策による換気強化で能力は十分に発揮できていないようだ。「前方より後方が送風口との距離が近く、より冷風を感じることができる」とも付け加え、後方なら比較的暑さをしのぐことはできそうだ。
■我慢するしか…
再び交通局自動車部運輸課へ聞いた。事情を伝えると、担当者は「確かに前方では乗客自身で送風口を調整するのは難しいので、今後は車内全体に冷気が広がるよう、最初から送風口を真下ではなく斜めに設定するようにする」とし、「暑い時は運転手に遠慮なく言ってほしい」と改めて付け加えた。
相談者の女性に結果を伝えると、「コロナで換気を強化するのも、バリアフリーで低床式の車両にするのも当然で、交通局の言うことはよく理解できる」と納得していた。ただ「私が暑いと感じても、周囲の人は寒いと思っているかもしれない。遠慮なく運転手に伝えてと言われても…。できるかしら」とこぼした後、「我慢するか、後方に乗ることにします」。残念ながら、今回の取材で悩みを完全解決することはできなかった。