現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

新井けいこ「電車でノリノリ」

2017-10-06 08:56:55 | 作品論
 転校生の女の子が、とっつきにくいと思っていたそばの席の女の子たちと、同じ班のメンバーとして社会科見学で「科学技術館」へ行ったのをきっかけにして、新しい面を発見して仲良くなる話です。
 その新しい面というのは、今はやりの「鉄道オタク」なのでタイムリーだと思いました。
 女の子たちだけでなく、一緒の班になった男の子たちまで「鉄道オタク」だったのは、うまくいきすぎな気もしますが、女の子の読者だけでなく、「鉄道オタク」の多い男の子の読者も取り込めるかもしれません。
 いろいろな路線や列車の名前、「乗り鉄」、「食べ鉄」、「撮り鉄」、「詩鉄(作者の造語?)」などの「鉄道オタク」用語が頻出していて、鉄道オタクに限らずそれ以外の乗り物好きの読者にもすごく楽しいのですが、それ以外の中学年(登場人物は四年生です)の読者にとっては少し難しいかもしれません。


電車でノリノリ (文研ブックランド)
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文研出版
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ドリーム

2017-10-06 08:54:30 | 映画
 アメリカ初の有人人工衛星に関するNASAの成功(打ち上げ、周回軌道、再突入、回収)の裏に隠されていた、黒人女性科学者・技術者たちの活躍を描いた作品です。
 1960年前後のまだ人種差別があからさまに行われていた(描かれていただけでも、学校、店、図書館、トイレ、コーヒーメーカー、バスなどが白人用と有色人種用に分けられていました)時代で、さらに女性差別も今よりひどい時代に、偏見や差別に戦い才能を発揮する彼女たちはまるで光り輝いているようです。
 打ち上げや再突入の数式を考え出して計算した(NASAでさえ、ちょうどIBMのコンピューターを導入しようとしているところで、打ち上げなどの複雑な計算を、すべては手計算もしくは手動計算機で行っていました)天才女性数学者を中心に、黒人女性初のNASAの技術者(彼女は、裁判で白人の学校に通う権利を勝ち取って、技術者になる資格を得ます)、黒人女性初のNASAの管理職(しかも電算室の室長。彼女は、これからはコンピューターの時代で計算係の仕事はなくなると先読みし、自力でFORTRAN(懐かしきコンピューター言語です)を勉強しただけでなく、計算係の黒人女性たちを教育してプログラマーに仕立て上げます)の三人の偉大な女性たちを描いています。
 ともすれば、かたくなりそうな素材ですが、家族愛や品のいいロマンス、打ち上げや再突入のスリルも描いて、一級のエンターテインメント作品に仕上げています。
 もちろん、この背後には、ソ連との猛烈な宇宙での覇権争いがあるわけで、このお話でもアメリカ万歳的な要素(例えば、アメリカ初の宇宙飛行士のジョン・グレン(アメリカ社会では今でもスーパーヒーローです)をとてもいい奴に描いたり、ケビン・コスナーが演じる主人公の理解者の本部長もできすぎだったりします)も色濃くあるのですが、まあそれはそうとして割り切って見ることはできます。
 それにしても、一人のイケメン俳優も美人女優もアイドルも使わず、日本人がよく知っているような有名俳優もケビン・コスナーだけで、ある程度の興行収入が期待できそうな映画を作り上げられるアメリカ映画界は、上映前の予告編で嫌と言うほど見させられる同じような人気タレントばかりを使いまわしている日本映画界よりは、はるかに健全そうです(もちろん、そうしたアイドル映画も作られていて、日本には来ないのだけなのかもしれませんが)。
 ひどいのは、日本の映画製作会社だけでなく輸入会社も同様で、この映画の原題は、「Hidden Figures」で「隠れた(隠された)数学(人々)」という内容にピッタリのものなのですが、予定されていた邦題は「ドリーム 私たちのアポロ計画」というむちゃくちゃなもの(映画の舞台はマーキュリー計画の時代なのに、日本人には宇宙計画と言えばアポロ計画だろうと、たかをくくって決めたようです)だったのですが、予告の段階で批判されて「ドリーム」に落ち着いたそうです。
 きっとこの映画自体も、アカデミー賞の候補にならなければ、日本では見られなかったことでしょう。

ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)
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