現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

宮川健郎「はじめに 半ズボンと児童文学 ― 児童文学とは何か」現代児童文学が語るもの所収

2017-10-09 09:03:18 | 参考文献
 奇妙なタイトルは、バラージュ=ベラの「ほんとうの空色」の主人公の少年が、半ズボンをはくのをやめた時に子ども時代が終了したことから、半ズボンを子どもの象徴として使っています。
「ほんとうの空色」は、いずれも児童文学の大きなテーマである「子ども時代にサヨナラする時」と「ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール」を、同時に鮮やかに描いた1920年代のハンガリーの傑作で、児童文学者(例えば今江祥智など)にもファンが多い作品です。
 著者は、ここからスタートして、アリエスや柄谷行人を引用して、「子ども」ないしは「児童」という概念が近代(西洋の場合はフランス革命以降、日本の場合は明治維新以降でしょう)に発見されたものであり、半ズボン(現在の子どもは半ズボンはあまりはかないので、今ならハーフパンツか)が子どものために用意されたように、児童文学も子どものために書かれた文学として誕生したとその起源を明らかにしています。
 さらに、巌谷小波の「こがね丸」から初めて、小川未明、赤い鳥、プロレタリア児童文学、坪田譲治、宮沢賢治と、1950年代にスタートした現代児童文学までの日本児童文学の歩みを足早に概観しています。
 このように先行研究を網羅的にながめて要領よく短い紙数でまとめあげるのは、著者の論文の非常に優れた特長です。
 ただ、母上(児童文学作家の宮川ひろ氏)と違って実作の経験がない(あるいは乏しい)ためか、文学理論が先行していて作家の創作における内的必然性(それには、当然、作家を取り巻く社会や経済の問題が影響しています)が軽視される傾向が著者の論文にはあるので、そのことに注意して読んでいく必要があります。
 この本は、全体をまとめた形で書かれたのではなく、いろいろな形で発表された論文などが下敷きになっているので、それぞれの章を独立した論文として読んでいきたいと思います。

現代児童文学の語るもの (NHKブックス)
クリエーター情報なし
日本放送出版協会
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児童文学における子ども社会と老人社会

2017-10-09 08:55:49 | 考察
 核家族が一般化した現代では、子どもと老人が一緒に住む機会が極端に減ったために、それぞれが形成する社会が分断されていることが多くなっています。
 子どもたちは、家庭(多くは親世代と子ども世代だけで形成されていて、祖父母以上の世代は子どもたちにとってはたまに会いに行く存在になっていることが多くなっています)と学校を中心にして、いろいろな習い事の場や地域の商業施設や公共施設などで生活しています。
 一方の老人たちは、家の中に孤立している場合(ほとんどが男性です)もありますが、多くは老人同士のコミュニティを形成して生活しています。
 そのコミュニティの場としては、自宅以外は、子どもたちと同様に、習い事の場や地域の商業施設や公共施設などのことが多くなっています。
 しかし、両者は利用時間帯(例えば、多くのスポーツクラブは、午前中や午後の早い時間が老人用で、夕方は子ども用、夜は学生や勤労者用に設定されています)や利用場所が区別されていて、お互いに接する機会はほとんどありません。
 少子高齢化が進む中で、児童文学において、子ども社会と老人社会をどのように結び付ける(協調する場合もあるでしょうし、対立する場合もあるでしょう)かは、ますます重要なテーマになってきていると思われます。

夏の庭―The Friends (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

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絵本における文字の使われ方

2017-10-09 08:34:31 | 考察
 絵本の中に、文字が絵の一部としてそのまま使われることがあります。
 漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット、数字など、使われる文字は様々ですが、使われ方もまた様々です。
 大きさを変えたり、字体を変えたり、色を変えたり、形を生かして文字そのものに意味を持たせたりなど、いろいろなことができます。
 そうした時、一人で文章と絵を創作している場合は問題ないのですが、作家と画家がコンビで仕事をする場合は、どのように意図や狙いを伝達するかが問題になってきます。
 しかし、文章が先の場合は、作家があまり細かく絵の指示を出すと、画家がアイデアを創出する妨げになる場合もあるようです。

ABCの本 (安野光雅の絵本)
クリエーター情報なし
福音館書店
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