現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

森忠明「こんにちわ するめすぺしゃる」こんなひとはめったにいない所収

2017-10-17 10:31:32 | 作品論
 今度は、おばあちゃんにあてた手紙の形式を取った作品です。
 おばあちゃんの病気、近所の火事などがあまり脈絡なくずらずらと書かれていきます。
 こういう作品を、年少の読者に向けてなぜ出版したのでしょうか?
 こんな時、児童書の出版社の編集者の仕事に、大きな疑問を感じてしまいます。
 今でも、編集者という仕事は、文学部などの学生にかなり人気があるようです。
 その大きな理由が出版社の給与がいいことですが、これについてはかねてから私は大きな疑問を持っています。
 クリエイターである作者や画家は、特に純文学やエンターテインメント以外の児童文学に携わっている人たちは、私の知る限りでは信じられないほどの低収入に甘んじています。
 ところが、彼らと読者の間にいる出版社や取り次ぎや書店に努めている正社員の人たちは、そうじて作家たちよりはるかに高収入なのです。
 これでは、学生たちが作家でなく編集者になりたがるのも無理はないでしょう。
 どう考えても、本(特に児童書)の収益の分配の仕組みがおかしいとしか思えません。
 日本児童文学者協会や日本児童文芸家協会など関係団体が、もっと作家の立場を強くするために活動しなければいけないのではないでしょうか。
 どうもそれらの組織の代表者たちので実務能力が、出版社の経営者たちより劣っているとしか思えません。
 また、児童文学の世界では、生活がかかっていない大量の主婦作家の存在も、この問題の足を引っ張っているように思います。
 彼女たちは本を出すことが最終目的で、その出版が一方的に出版社側に有利な劣悪な契約条件でもぜんぜん平気なので、いつまでも状況は好転しないのです。
 早く書籍の電子化が進み、書き手と読者がダイレクトにつながるようになって、出版社などの中間搾取層が少なくなる(完全にはなくならないでしょうが現状よりは良くなるでしょう)日が来ることを祈るばかりです。


こんなひとはめったにいない (幼年創作シリーズ)
クリエーター情報なし
童心社
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井辻 朱美「4人のジャパネスク・ネオ・ファンタジー女流作家たち ―小野不由美を中心に」日本児童文学の流れ所収

2017-10-17 10:28:56 | 参考文献
「現代日本の人気ネオ・ファンタジー作家といえる人たち、荻原規子、上橋菜穂子、梨木香歩、小野不由美らを取り上げ、どこが新しいのか、おもしろいのか、翻訳ファンタジーからの影響も含めて考えてみたいと思います。」と初めに掲げられています(湯本香樹実と森絵都にも少し触れています)。
 内容はその通りなのですが、大半が彼女たちの作品のあらすじを述べているので、すでに読んでいる人には退屈ですし、読んでいない人にはネタバレで迷惑だったでしょう。
 そこから、どこが講師にとって新しく面白かったのかを拾ってみると、以下のようになります。
1.作品の舞台がほとんどが現代の日本でではなく、外国だったり、過去だったり、創作した世界(といっても、本当はいくつかの国(アジアや中東のことが多い)を混ぜ合わせているだけなのですが)だったりする(読者にとっては、目新しさを生み出していると思われます)。
2.先行して翻訳された作品(特に英米児童文学や中国文学でしょう)の強い影響を受けている(1と反するようですが、どこか既視感があって安心して読み進められます)。 
3.死の世界、死後の世界が大きなテーマになっている(講師も述べているように、現代の子どもたちにとって「死」はなじみのないものになっているので、それゆえ恐怖対象であり、知りたいという欲求も強いでしょう)。
4.3とも関係するのですが、現実の閉塞した状況に対して、スピリチュアルな世界の論理で支配された世界を構築している(講師は触れていませんが、現代の若い女性の閉塞感は特に強いものと思われます。あるいは、講師も女性ですし聴衆も図書館関係者で女性が多いでしょうから、別に言わなくても暗黙の了解があるのかもしれませんが)。 
5.従来のファンタジーのように、第一世界(現実世界)と第二世界(空想世界)の「行きて帰りし」ファンタジーではなくて、第二世界(空想世界)へ「行ったきり」ファンタジーになっている。
6.第一世界(現実世界)に対する第二世界(空想世界)を設定し、そこに第三世界(霊界、天上界)がさらに接していて、純粋な第二世界のみのお話ではなく、第二世界にとっての異界である第三世界との交流と帰還を描いている(それによって、読者は第二世界と第三世界を等価に眺められ、スピリチュアルな第三世界をよりリアルに体験できるとしています)。
 以上はその通りなのですが、なぜこれらのような作品がその時期に生み出されるようになり、それが読者に非常に受け入れられるようになったかを、講師も少し触れているジェンダー観の変化をからめて考察してほしかったと思いました。
 なぜなら、取り上げられた六人の作家はすべて女性ですし、おそらく大半の読者も女性(児童文学のコアな読者である女の子たちだけでなく、初めは若い世代から今ではより広範な年代の女性たちになっているでしょう)だと思われます。
 それらを考察するためには、これらの作品が生み出された時代の社会背景(特に女性の社会進出や結婚観など)や児童書のマーケットの変化についてきちんと把握することが必要でしょう。

 
ファンタジーの魔法空間
クリエーター情報なし
岩波書店
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