現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

庄野潤三「マッキー農園」庄野潤三全集第四巻所収

2018-07-22 21:02:58 | 作品論
 これも、作者が妻と一緒にアメリカの田舎町のガンビアに一年間滞在した時の話です。
 作者が、義父の農園を借りて牛を飼っているマッキー氏の家族と知り合うようになったのは、帰国の数か月前ですが、そこから急速に親しくなって作者たちが帰国するときに最寄りの飛行場へ車で送ってくれたのも彼らでした。
 収益の半分を義父に払わなければならないので、重労働の割にはぎりぎりの生活(現に、帰国のために捨てようとしていた作者たちが使っていた靴や食器や調理器具などを喜んでもらっています)だとマッキー氏は語っていますが、作中に登場する彼らの食生活(盛りだくさんのローストビーフやチキンやケーキや果物など)は、当時(1958年と思われます)の日本の基準で考えれば随分豊かです。
 敬虔で親切で誠実な働き者のアメリカ人が、まだ質素だが堅実な暮らしができたころの古き佳きアメリカがそこには描かれています。
 もちろん、公民権運動が勝利をする前なので、そこに登場しているのは白人ばかりですが。
 私が初めてアメリカに行ったのは1980年代ですが、そのころでもアメリカの田舎(私が行ったのは主にコロラド州やテキサス州です)では、私が普段行っていたカリフォルニア州のシリコンバレーあたりに住んでいる人々(白人以外はアジア系の人たちが多く、東部と違って黒人は相対的に少なかったです)とはかなり違った、堅実で親切な懐かしい感じのするアメリカ人(白人)たちと出会いました。
 私が懐かしいと感じたのは、子どものころにテレビで人気のあったアメリカドラマ(「名犬ラッシー」「ララミー牧場」「ローハイド」「パパは何でも知っている」「うちのママは世界一」「ビーバーちゃん」など)の影響でしょう。
 そうした、白人の田舎の庶民の多くは、その後生活的に困難な状況に陥いって「プワー・ホワイト」と呼ばれ、彼らの転落の原因をエスタブリッシュメント層(これは正しいと思います)と移民(かつては彼らもまたヨーロッパ各地からの移民だったのですが)に求め、トランプ大統領登場の原動力になったのはご存じのとおりです。

庄野潤三全集〈第4巻〉 (1973年)
クリエーター情報なし
講談社
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