現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

安藤美紀夫「訳者のことば」マルコヴァルドさんの四季所収

2018-07-16 10:02:20 | 作品論
 訳者によると、イタリアの児童文学は、19世紀の独立戦争を経て、1861年の独立達成を機に再スタートしたとのことです。
 30%以下の識字率の克服ための義務教育制度の発足や、外国の支配によりバラバラになっていた国家の統一といったことと、児童文学は無縁では居られなかったと思われます。
 そうした状況において、現代でも読み継がれている「ピノッキオ」や「クオレ」といった優れた児童文学作品が登場しました。
 寓話的ファンタジーとリアリズムといった表現形式の違いはありますが、どちらも教育的な側面(「よき市民をつくる」、「愛国心の育成」など)が色濃く表れていて、その後のイタリアの児童文学に大きな影響を与えたようです。
 そうした中で、国家の意向とは無縁に、民衆の感情に根差した「マルコヴァルドさんの四季」が誕生したのは、著者も指摘しているように、イタロ・カルヴィーノがこの作品に先行して、200篇以上の民話を再話してその広がりを解説した1000ページに達する大作の「イタリア民話集」を出版したこととは無縁ではないでしょう。
 日本でも、松谷みよ子が民話の再話(「龍の子太郎」など」)からスタートして、それを土台にして「ふたりのイーダ」や「ちいさいももちゃん」などの新しい児童文学世界を切り拓いていったのと、共通性があると思われます。

マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)
クリエーター情報なし
岩波書店
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後藤正治「楕円球の夢」咬ませ犬所収

2018-07-16 08:43:26 | 参考文献
 ラグビーを題材にしたスポーツドキュメンタリーです。
 ますますこの本のテーマである「陽のあたらない存在にスポットライトをあてる」から遠く離れてしまいました。
 なにしろ、今回の対象は、日本ラグビー史上最高のウィングと言われている坂田好弘なのですから。
 2015年のワールドカップで日本が南アフリカに劇的勝利を収めて空前のラグビーブームを迎えましたが、坂田はその五十年近くも前に2015年ワールドカップでも優勝した本場ニュージーランドで大活躍した伝説のプレーヤーです。
 作品のねらいとしては、無名の大阪体育大学を監督として率いて、伝統校の早慶明や同志社大学に挑戦する姿を描きたかったのでしょうが、作者自身が坂田のファンを自称しているせいか、前半の坂田の現役選手としての栄光の日々に紙数を割きすぎていて、肝心のねらいの部分がぼやけてしまいました。
 ただ、個人的には、現役時代の坂田をかすかにしか知らないラグビーファンなので、坂田の評伝として十分に楽しめました。

スポーツノンフィクション 咬ませ犬 (同時代ライブラリー (296))
クリエーター情報なし
岩波書店
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