元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

今野敏「リオ」

2008-05-16 06:34:12 | 読書感想文

 この前読んだ「隠蔽捜査」がなかなか面白かったので、連続して今野敏の作品に接してみた。これも主人公のキャラクターが立っていて、けっこう読ませる。

 連続殺人事件を担当する警部補・樋口顕は40代だが、舞台は95年なので、団塊世代のひとつ下の年代ということになる。彼は全共闘世代が暴れ回った後に大学に入り、ベビーブーマー達がぶっ壊した秩序をひとつひとつ立て直すという難儀な作業を若い頃にイヤというほど体験している。そのため、生活態度はストイックで控えめ。家族を何よりも愛しており、間違っても団塊世代みたいな狼藉は働かないことを信条としている。

 自己主張の強い面々ばかりの警察の現場では不似合いな人材とも言えるが、絶えず空気を読んで波風立てず、粛々と業務に励む様子は上司の信頼も厚い。「隠蔽捜査」の主人公である鼻持ちならないエリート警察官僚(でも実は有能)とは別の意味で、樋口みたいな謹厳実直な人材もどこの組織にも必要であろう。

 そんな彼が関わった事件の重要参考人として、いつも現場に居合わせる女子高生が浮かび上がる。なかなかの美少女である彼女に年甲斐もなく心を動かされる樋口だが、そこは“オレは劣情ばかりに突き動かされる団塊世代とは違うのだ!”とばかりに自らを律するあたりが微笑ましい。だが、無軌道な彼女の親は全共闘の闘士だったことが判明するに及び、ここからも世代論が浮き上がってくるところが玄妙である。樋口の僚友である刑事・氏家も同年代で、彼も団塊世代への微妙な屈託を、樋口とは別の形で体言化している。相変わらず今野は人物描写が上手い。

 この小説を読むまでもなく、団塊世代は戦後日本の鬼っ子であることは明らかで、彼らが世の中を背負う年代になってきた頃から、日本は完全におかしくなったと言って良いだろう。この状態にオトシマエを付けることなく、昨今彼らは定年を迎えて現場を去って行くのだが、その後始末にはあと何十年掛かるか分かったものではない。

 事件捜査そのものにはさほど工夫は凝らされて居らず、真犯人はすぐに判明する。そこが不満といえば不満だが、本格推理小説ではないのでそれも許されよう。なお、本作は以前NHKがドラマ化したことがあったそうで、女子高生役には当時清純派だった(爆)矢田亜希子が扮していたらしい。ちょっと見たい気もする(笑)。
コメント
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