(原題:SPEED RACER )観ている間“これでいいのか?”という疑問が頭を離れることがなかった。往年の日本のTVアニメーション「マッハGoGoGo」(作:吉田竜夫)のハリウッド版実写映画化だが、登場人物以外はすべてデジタル処理。これでは最近次々と作られているCGアニメと変わらず、そもそも“実写”という謳い文句に偽りがあるのではないか。
元ネタの「マッハGoGoGo」はリアルタイムでは見ていないが、再放送は何度か目にしており、その荒唐無稽な作品世界に見入ったものだ。レースに命を賭けた主人公と彼をバックアップする家族が、数々の難敵に打ち勝っていくという筋書きは、レース場面こそ波瀾万丈で“何でもあり”という展開なのだが、作品の根幹にあるものはホームドラマであり、彼らの家業は普通のレース屋だ。舞台も現代で、テレビで中継されるようなカーレースが主な活躍の場。ただし彼らは時々“常軌を逸したレース”に参戦するハメになるというだけの話である。
つまりは通常のクルマ屋稼業(日常)とヤクザなレース(非日常)とのギャップが「マッハGoGoGo」の魅力の一つであったように思うのだ。しかしこの映画版は、舞台は未来でレースは正式・非正式問わず全て“常軌を逸している”。書き割りのようなセット(?)と目が痛くなるような色遣い、チャラチャラしたメカの動きと遊園地の絶叫マシンのようなコースの連続。最初から最後まで“非日常”の連続で、ドラマが完全に宙に浮いている。見始めて20分も経たないうちに目と肩が痛くなってくるような、困ったシャシンなのだ。
ウォシャウスキー兄弟の演出も完全に“サッと流した”というレベルで、気合いが入っていない。実写にするならCGにおんぶに抱っこの状態ではなく、本当の意味での“実写”にすれば数段良かっただろう。主人公役のエミール・ハーシュは別に可もなく不可も無し。ヒロインのクリスティーナ・リッチは、正直言って彼女じゃなくてもいいような役柄。両親役にジョン・グッドマンとスーザン・サランドンまで起用しているのに、さほどの見せ場は無し。さらに真田広之とRAIN(ピ)をアジアから招いていながら扱いは実に低調だ。
同じCG仕立てのレース映画ならばディズニーの「カーズ」の方がずっと上。アメリカでの不評ぶりも納得できるような体たらくである。元ネタに準拠したテーマ音楽も虚しい。