(原題:The Fall)「ザ・セル」の監督の新作なので映像だけ楽しめばいいと思っていたが、それ以外の部分も興味を引く部分がある。それは大怪我をして入院した青年(リー・ペイス)の職業がスタントマンである点だ。
時は1915年、まだ映画が民衆にとっての一大娯楽としての地位を獲得していない頃に、数少ないスタントマンの一人である彼の仕事を通して、映画の真髄を雄弁に語らせている。それはつまり“落ちる”ことだ。
彼は出演者の運動範囲を超えた次元を体現する。キャストが物理的に単純な横移動を含めた半径数メートルでのアクションしか披露できないことをカバーし、映画は縦移動の三次元的な行動を実現させる。スタントマンという存在がそれを可能にする。縦方向でのアクションで最も頻繁に使われ、かつまた普遍性が高い現象は“落下”である。
彼は映画の中で馬から落ちる、崖から落ちる、そして橋から落ちて大怪我をする。映画だけが持つ“落下”の魅力により映像は縦方向に広がり、観る者に臨場感をもたらす。映画の黎明期を題材にして、他の娯楽にはないその特質を示そうという、作者の映画への愛情が感じられる一編だ。
さて、スタントマンの青年が失恋の痛手のため自ら命を絶とうと考え、同じ病院に入院していた少女に作り話を聞かせて巧みに自殺用の薬を盗ませようというメインストーリーは大したことはない。陳腐で冗長だ。わずかに少女を演じるカティンカ・アンタルーの無垢な魅力が光る程度。
対して創作話の映像化はさすがにターセム監督らしい圧倒的な美しさを見せつける。フィジー、インド、イタリア、南アフリカなど世界20か国以上の場所で、多くの世界遺産を含む絶好のロケーション撮影を敢行。まるで「七人の侍」みたいな登場人物達や、いくらか図式的な画面構成はよく考えると鼻白む結果にもなるのだが、映画を観ている間はそこまで気が回らないほどの映像のヴォルテージの高さだ。特に象が悠々と泳ぐ姿や、沙漠にセットされた巨大な白い布がゆっくりと鮮血に染まっていく場面には驚嘆した。石岡瑛子による衣装デザインも素晴らしい。
それにしても、チャールズ・ダーウィンの飼っている猿の名前がウォレスで、猿に向かって“進化論は君が考えたんだよ”と言い放つ場面には笑った。ウォレスとは当然アルフレッド・ラッセル・ウォレスから取っており、ウォレスはダーウィンとは別に進化の理論を構築した学者である。