(原題:Vicky Cristina Barcelona)インモラルで生臭い話なのだが、実に好印象。ウディ・アレンの熟練の技とスペインの明るい陽光が、危うい筋書きを巧みにスマートな艶笑喜劇へと昇華させている。
バルセロナで一夏を過ごすためにアメリカからやって来た2人の若い女。彼女たちに絡んでくるのが離婚したばかりのプレイボーイの画家で、たちまち三角関係の泥沼に突入・・・・と思ったら、この恋愛ゲームに外野から次々と予期せぬ連中が飛び入り参加してくる。三角どころか四角・五画へと発展する混迷したラヴ・アフェアを破綻せずに積み上げていくその手腕に感心すると共に、各キャラクターに的確な“見せ場”を配置するウェルメイドな脚本にも唸らざるを得ない。
一応中心となるのは、ハビエル・バルデム扮する画家だろう。刃傷沙汰になりながらも、やっとのことでカミさんと分かれたはいいが、実は彼女が居なければ何も出来ないヘタレ野郎だ。あっちこっちの女に手を出して遊び人を気取ってみても、身勝手な孤独感から逃れることが出来ない。言うまでもなく過去にウディ・アレンが演じてきたダメ男に通じるものがあるが、アレンがやるとユダヤ臭さとインテリのイヤらしさが出てくることもあったのに対し、バルデムはラテン系らしい明るさで深刻度ゼロの楽天性を獲得している。
それにしても、単純な(?)三角関係は泥沼に入りがちだが、これが四角関係以上になると、場合によっては逆に“ややこしさ”が一つのリファレンス性を演出し、かえってスッキリとまとまってしまうものなのだ・・・・と、つくづく思う(個人的にはそういう経験はないが ^^;)。
もちろん本作は、カオスも突き詰めれば“秩序”に達するという単純な図式だけで展開してはいない。誰某が“よろめきモード”に入る順序およびタイミングが絶妙で、小道具・大道具の使い方も相まって巧妙な仕掛けが施されている。一見突き放したようなナレーションも、ドラマが必要以上に脂ぎってくるのを抑える意味で効果的だ。
この映画でアカデミー助演女優賞を取ったペネロペ・クルスはエキセントリックかつチャーミングな画家の妻を楽しそうに演じていたが、彼女にしてみれば“軽くこなした”という部類だろう。それよりも奔放なヤンキー娘を演じるスカーレット・ヨハンソンが印象深い。若いわりには出演作の多い彼女だが、蓮っ葉な雰囲気の役柄が目立っていた。ところがこの映画では、気侭なキャラクターながら、下品にならず実に可愛く描かれている。ウディ・アレンは彼女にゾッコンなのだろう。好きな対象が出ていれば撮る方も気合いが入ろうというものだ(笑)。