昭和32年作品。野村芳太郎監督の初期の代表作と呼ばれている映画で、原作は松本清張。今回は“清張生誕百年”を記念した特集上映にて鑑賞した。なお、私は本作を観るのは初めてだ。感想だが、どうにも要領を得ない作品だと思った。清張の原作は未読ながら、脚色の際に随分と無理をしているような印象を受ける。
都内で起こった質屋殺しの共犯を追って、警視庁捜査一課の刑事二人が佐賀市に住んでいる犯人の昔の恋人(今は人妻)の家を張り込む。目標とする家の真ん前に木賃宿があるという御都合主義には苦笑するが、それよりも愉快になれないのが、主人公である若い刑事の過剰なモノローグである。
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張り込み対象となる人妻は20歳も年の離れた中年男に嫁ぎ、しかもその夫というのがケチな銀行員で、必要最小限の金しか家庭に入れない。前妻との間に出来た子供達は新しい母親に懐いてはいるのだが、彼女としてはいま一つ馴染めない。一目で覇気のない生活を送っていると分かるのだが、くだんの刑事は“それにしても、あまりにも生気がない。全然生き生きしたところのない女だが、この女がまさか・・・・”などと御丁寧に説明してくれる。中盤以降の追跡戦のパートにしても、見たら誰でも理解出来るシチュエーションをこれまた延々と内面的モノローグで“解説”するその度を超したサービス精神には辟易してしまった。
また、短編である原作を無理矢理に約2時間もの映画にしているためか、余計なエピソードも目立つ。主人公の恋人とその家族を描くパートなどはその最たる物で、長いわりには何も語っていない。丹念に紹介されるベテラン刑事の日常風景も、さほど重要とは思えない。何より、張り込みという単調なモチーフをドラマに持ち込むには作劇にメリハリが必要であるはずだが、前半までは刑事達の地味な仕事ぶりと同様に退屈だ。もっと話を刈り込んであと30分は削って欲しかった。野村芳太郎の演出にも、後年の作品に見られるキレが感じられない。
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では、観る価値がなかったかというと、そうでもないのだ。大木実、宮口精二、田村高廣、高峰秀子といった出演陣はやはり存在感がある。特に、高峰の“女の二面性”を上手く表現した演技には感心させられた。そして炎天下での捜査という過酷な雰囲気はよく出ている。冒頭、冷房もない満員の列車で横浜から佐賀まで旅をする刑事達の苦闘から、画面一杯に熱気が漂っている。佐賀でのロケによる市街地や田園地帯の風景も魅力的だ。
しかし、終盤の舞台が宝泉寺温泉だというのは納得できない。宝泉寺温泉は佐賀県ではなく大分県にあり、私のような九州人はかなりの違和感を抱いてしまうのだ。いくら原作の川上峡温泉が映画の雰囲気と合わなかったとはいえ、もうちょっと工夫すべきであった。
都内で起こった質屋殺しの共犯を追って、警視庁捜査一課の刑事二人が佐賀市に住んでいる犯人の昔の恋人(今は人妻)の家を張り込む。目標とする家の真ん前に木賃宿があるという御都合主義には苦笑するが、それよりも愉快になれないのが、主人公である若い刑事の過剰なモノローグである。
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張り込み対象となる人妻は20歳も年の離れた中年男に嫁ぎ、しかもその夫というのがケチな銀行員で、必要最小限の金しか家庭に入れない。前妻との間に出来た子供達は新しい母親に懐いてはいるのだが、彼女としてはいま一つ馴染めない。一目で覇気のない生活を送っていると分かるのだが、くだんの刑事は“それにしても、あまりにも生気がない。全然生き生きしたところのない女だが、この女がまさか・・・・”などと御丁寧に説明してくれる。中盤以降の追跡戦のパートにしても、見たら誰でも理解出来るシチュエーションをこれまた延々と内面的モノローグで“解説”するその度を超したサービス精神には辟易してしまった。
また、短編である原作を無理矢理に約2時間もの映画にしているためか、余計なエピソードも目立つ。主人公の恋人とその家族を描くパートなどはその最たる物で、長いわりには何も語っていない。丹念に紹介されるベテラン刑事の日常風景も、さほど重要とは思えない。何より、張り込みという単調なモチーフをドラマに持ち込むには作劇にメリハリが必要であるはずだが、前半までは刑事達の地味な仕事ぶりと同様に退屈だ。もっと話を刈り込んであと30分は削って欲しかった。野村芳太郎の演出にも、後年の作品に見られるキレが感じられない。
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しかし、終盤の舞台が宝泉寺温泉だというのは納得できない。宝泉寺温泉は佐賀県ではなく大分県にあり、私のような九州人はかなりの違和感を抱いてしまうのだ。いくら原作の川上峡温泉が映画の雰囲気と合わなかったとはいえ、もうちょっと工夫すべきであった。