(原題:The Imaginarium of Doctor Parnassus)テリー・ギリアム監督の映像センスが大好きな人にとっては堪えられない映画だが、それ以外の観客にはオススメできない。舞台は現代のロンドンだが、パルナサス博士(クリストファー・プラマー)をリーダーとする旅芸人一座の出で立ちは中世モード。要するに完全に場違いなのである。この設定を笑って済ませられるかそうでないかで、作品の評価が決まってくるだろう。
パルナサス博士は実は“神”であり、太古の昔に悪魔にハメられて、こんな姿に身をやつしているのだ。しかし、当然のことながら“そんなケチなペテンに、神ともあろう者がどうして引っ掛かるのか”という疑問が出てくる。さらに、これがどうして旅芸人稼業に繋がり、なぜ人間の深層心理を具現化させる“鏡”が存在するのか、さっぱり分からない。
一座はある日、危うく殺されそうになっていた青年トニーを助けるが、この男に扮するのがヒース・レジャー。この映画は彼の遺作になる。だが、鏡世界の部分は未撮影だったので、鏡の中ではトニーの姿が変化するという設定にして、残りの場面はジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が演じている。
だが、顔は変わっても身に付けているものは同じであり、しかも3人とも似たような体格なので、有名俳優が次々と入れ替わる“顔見世興行”的な妙味は希薄だ。どうせならばレジャーとは全く似ても似つかない、年齢も体型も(ついでに性別も)違う俳優を複数連れてきて、七変化を賑々しく見せてくれた方がずっと楽しめただろう。
トニーは慈善団体の運営で不正をはたらいてマフィアや債権者に追われる立場なのだが、そのへんの事情がほとんど解決せずに終盤に移行してしまうのは愉快になれない。そしてラストに描かれる旅芸人の面々の“その後”にしても、何やら釈然としない。要するに、ストーリーラインは作者が独りよがりの与太話をデッチあげたようなシロモノである。これを“ギリアムらしい”と納得すればいいのだが、大半の観客にとってはそうはいかないだろう。
鏡の中の幻想シーンは素晴らしい。よくもまあこんなイメージが次々と浮かぶものだと思う。ただし、あくまでそれは“並の映画と比較して”の話。ギリアムの代表作である「バロン」には及ばない。
その他のキャストでは、悪魔に扮したトム・ウェイツが儲け役。不貞不貞しく、カリスマ性たっぷりだ(一曲歌ってくれればもっと良かった ^^;)。ヒロイン役のリリー・コールも魅力的。売れっ子の若手モデルでもあり、イギリス人にしては(失礼)とても可愛いと思う。今後の活躍が期待出来る。