さっぱり面白くないのは、対象を捉える際の“基準点”が存在しないためだ。有り体に言えば、本作にはカタギの一般人からの視点がない。このことは吉田恵輔監督の前作「純喫茶磯辺」と比べると明らかになる。
「純喫茶~」には思い付きで喫茶店を始める中年男をはじめ、そこで働く“ワケあり”の面々や変人ばかりの客たちの群像劇が、唯一マトモな主人公の娘の目を通して描かれていた。だから世間の常識と、それから外れたキャラクター達とのコントラストが鮮明化し、ドラマにメリハリと奥行きが付与されていたのだ。対してこの映画は、出てくる連中ほぼ全員が常軌を逸しているため、最初から終わりまで宙に浮いた与太話にしかなっていない。
釣具店に勤める30歳の百瀬(高岡蒼甫)は、デパートガールの佳代(田畑智子)と同棲しているが、最近は倦怠気味。ある日、佳代の妹で中学生の桃(小野恵令奈)が彼らのアパートに転がり込んでくる。夏休みの間に東京見物を兼ねて厄介になるつもりなのだ。ところが下着姿で部屋をうろつく奔放な桃に百瀬が惚れてしまい、佳代との仲も解消。結局、夏が終わると3人はバラバラの生活を送る事になるが、百瀬を諦めきれない佳代と桃を忘れられない百瀬は、突飛な行動に出るようになる。
要するにこれ、3人ともどこか頭のネジが緩んでおり、映画はそんなおかしな連中のヘンな所業を、何の工夫もなくただ追っているだけなのだ。おかしいのはストーカー行為に没頭する3人だけではなく、百瀬が世話になる職場の同僚も、佳代をマルチ商法に引き込もうとする友人も、果ては佳代の狂態を止めるハメになる警察の面々も、すべて正常ではない。主要登場人物にマトモな人間いないというのは、感情移入が出来ないという意味で観ていて実に辛いものがある。
もちろん“出てくる奴らが全員ヘンタイなのに面白い”という映画はあるのだが(笑)、吉田監督にそんな大風呂敷を広げて居直るような力量はない。3人が再び顔を合わせる終盤に至っては、作っている側も何をしていいのか分からず、三竦みの状態をただ漫然と映すのみ。シナリオは吉田監督のオリジナルらしいが、途中で作劇を放り投げたような出来だ。
主演の高岡と田畑は熱演だが、ストーリーがこんな体たらくでは空回りしているように見えるのも仕方がないだろう。新人の小野はAKB48のメンバーだということだが、典型的な素人演技であり特筆できるものはない(ルックスも冴えないし ^^;)。映像面でも印象に残る箇所は見当たらず。それどころかデジカムの汚らしい画像が鑑賞意欲を減退させる。凡作として片付けてしまいたい。