元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「六月の蛇」

2010-09-09 06:30:52 | 映画の感想(ら行)

 2002年作品。「東京フィスト」「バレット・バレエ」などで知られる異能・塚本晋也監督作だが、これはたとえばペドロ・アルモドヴァル監督の「トーク・トゥ・ハー」のような“軟弱変態映画もどき”など簡単に蹴散らしてしまう、正真正銘の“ド変態純愛映画”だ(笑)。

 淡泊で潔癖性の夫に倦怠感を抱く人妻が病的なストーカー男に“恥ずかしい写真”を撮られたことから“恥ずかしい行為”を強要されるという、昔のポルノ映画に散見されたシチュエーションから、イッキに至高の夫婦愛へと物語を強制着陸させてしまう、作者のその手腕は凄い。

 当初ストーカー男に翻弄されっぱなしだった人妻が、やがて逆に主導権を奪い、男の小賢しい企みを粉砕してゆく。注目すべきはそのプロセスにおいて、彼女の痴態を冷徹に追うだけのカメラが180度転換して惨めな男の素顔をさらけ出してゆくこと。被写体としての自分に目覚めるヒロインの心理と観客との共犯関係を強いるスリリングな作劇にはゾクゾクさせられた。

 全編を覆う土砂降りの雨、35ミリ・スタンダード・サイズの高密度モノクロ画面、ヒロインの夫が遭遇する変態テイスト満載の幻想シーン等、映画の意匠には抜かりがない。主人公に扮する黒沢あすかの存在感は素晴らしいが、夫役の神足裕司の絵に描いたような“小市民的むっつりスケベ親父ぶり”は圧巻(爆)。2002年度ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞受賞。
コメント
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