元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「満ち足りた家族」

2025-02-03 06:07:59 | 映画の感想(ま行)
 (英題:A NORMAL FAMILY )観ていて最後まで引き込まれた。タイトルとは裏腹に、全然“満ち足りていない家族”を極端な露悪的アプローチで描き出すという、逆の意味での“痛快作”だ。ここまでやれる演出と脚本の確信犯ぶりには、ただ驚くしかない。本作も、近年の韓国映画の好調ぶりを存分に印象付けてくれる。

 ソウルで法律事務所を開設しているジュワンは、倫理道徳よりも金銭的な損得勘定を優先する阿漕な弁護士だ。かなり年下の2番目の妻ジス、十代の娘と豪華なマンションで暮らしている。彼の弟ジェギュは、人徳者として評判が高い小児科医だ。年長の妻ユンギョンと十代の息子と暮らし、認知症を患った母親も引き取って介護している。この2つの家族は月に一回高級レストランの個室でディナーをともにすることを決めているが、あるディナーの夜に事件が発生する。しかも、そのアクシデントにそれぞれの子供が関与している疑惑が生じ、この兄弟は対処に悩むことになる。



 この設定だけ見れば、当初はジェワンとジェギュがそれぞれのスタンスにより対立するが、ある切っ掛けで和解の糸口が掴めるという筋書きを想像する観客もいるだろう。しかし、事態は暗転に次ぐ暗転を経て、予測困難な様相を呈してくる。

 早い話が、個々人がシッカリと持ち合わせているはずの主義主張や道徳律なんてものは、周囲の状況によって容易に揺らいでしまうものだということを、悪意に満ちた筆致で描いた作品である。もちろん、その背後には韓国社会に蔓延る拝金主義やヒエラルキーなどの問題が控えているのだが、本作の構図は高い普遍性を獲得していて、日本をはじめ幅広い国の観客にアピールすることだろう。

 ホ・ジノの演出はパク・ウンギョとパク・ジュンソクによるダークな脚本を得て、ブラックな方向に弾けまくる。特に、一時はヒューマニスティックな雰囲気での解決を匂わせながら、直ちに悪魔的な展開に移行するという底意地の悪さには、呆れつつも感心してしまう。

 兄弟に扮するのはソル・ギョングとチャン・ドンゴンだが、彼らの俳優としてのキャラクターを巧みに裏切ってゆく筋立てが見事だ。もちろん、彼らの演技も達者である。ユンギョン役のキム・ヒエとジスを演じるクローディア・キムも好調で、こっちの方も先の読めない内面的パフォーマンスが光る。

 あと、ジェギュの一家が面倒を見ている老母が、少しも彼らに感謝せず、それどころかジェワンのことばかりホメるのは観ていて辛い。まあ、これが老人介護の実相というものなのだろうが、暗澹とした気分になってくるのは確かだ。

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