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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「100歳の少年と12通の手紙」

2010-12-03 06:30:27 | 映画の感想(英数)

 (原題:Oscar et la dame rose )いわゆる“難病もの”の重苦しさはなく最後までスンナリと観ていられるが、けっこう不満もある。それは、愁嘆場の連続を回避するためにファンタジー方面に振った作劇が、別の意味での押しつけがましさに繋がっているためだ。

 フランスの田舎町にある病院に入院している、白血病で余命幾ばくもない10歳の少年。自分の運命を知って、医者はもちろん両親にも心を開かない彼が唯一腹を割って話せたのが、病院にピザを配達してくる中年女だ。元プロレスラーで、相手が病人だろうと何だろうとズバズバ本音を吐き、しかも言葉遣いは滅茶苦茶悪い。だが、腫れ物に触るように接する者しか周囲にいなかった少年にとって、彼女の存在は救いになった。病院側は彼女に少年の話し相手になってくれるよう依頼する。

 彼女の少年へのアドヴァイスが面白い。人生が残り少ないのならば、一日を10年として生きるのはどうかと提案するのだ。たとえば最初の一日は10代で初めての恋の告白、四日目の40代は人生の試練を経験する。そうすれば人よりも遙かに濃密な時間を過ごせる。この設定は面白い。何気ない一日が、光り輝く人生の歩みになるのだ。それは少年だけに限らず、周りの人々をも時間の尊さに気付かせるきっかけとなる。さらに、一日ごとに彼は神様へ手紙を書く。その手紙は風船に括り付けられ、空高く飛んでいくのだ。

 しかし、レスラー時代の思い出がスノーボールの中に幻想として現れるくだりになると、途端に映画は失速する。ファンタジー場面の挿入はアイデアとしては悪くないが、ヘタすればリアリティを阻害してしまう。しかも一回や二回なら我慢も出来るが、何度も見せられるといい加減面倒くさくなってしまうのだ。終盤あたりになると、ほとんど地に足が付いていない展開になってくる。

 よく考えてみると、くだんの女のプロフィールはほとんど語られていない。プロレスをやっていた彼女が、どうして今は片田舎でピザを焼く生活を送っているのか。家族との関係はどうなのか。そういうことがまるで説明不足である。穿った見方をすると、外見面で興味を惹かせるためだけにこのキャラクターを用意したとも言えよう。

 エリック=エマニュエル・シュミットの演出は丁寧だが、デジカム撮影による汚い画面が興を削ぐ。ヒロインを演じるミシェル・ラロックをはじめ、子役のアミール、それにマックス・フォン・シドーやミレーヌ・ドモンジョといった達者なキャストを配しているだけに、もうちょっとシナリオのリファインが必要だったように思う。
コメント
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