(原題:BEASTS OF THE SOUTHERN WILD )つまらない。アカデミー作品賞にノミネートされたとも思えぬ低調な映画である。もちろん、オスカー候補作がすべて良い映画であるとは限らないが、たとえ面白くない作品であっても何か新機軸を打ち出してやろうという作り手の意図ぐらいは感じることが多い。しかし、本作は徹頭徹尾ダメである。観る価値は無い。
アメリカ南部の湿地帯に浮かぶバスタブ島に住む6歳の少女ハッシュパピーは、父ウィンクや住民たちと楽しい日々を送っていた。ところが大嵐が島を襲い、すべてが壊滅する。さらには父が重病を患っていることが分かり、強制的に入院させられることに。シビアな境遇に直面しながらも、ハッシュパピーは力強く生きていこうとするのだが・・・・。
とにかく構図が単純すぎる。文明VS自然とか都市生活VS原始生活コミューンとかいうモチーフを平気で持ち出すとは、この作者(監督は若手のベン・ザイトリン)の頭の中は50年は古いと言わざるを得ない。しかも、自然の荒々しさをヒロインが夢想する巨大な野獣に象徴させるあたりは脳天気の極み。イマジネーションの欠片もない。
ハッキリ言ってバスタブ島の連中は落ちこぼれの集まりでしかなく、周囲の迷惑も顧みず駅や公園に居座る青テントの住民と何ら変わらないのだ。そういう者達が(気の利いたセリフの一つでも吐けるのならまだしも)自己の“権利”とやらに拘泥しているような様子をいくら見せられても、映画的興趣なんか引き出せるわけがない。
作劇面でも落第で、演出テンポが冗長であるばかりではなく、面白そうなエピソードを挿入させようという気もないらしい。特に終盤の展開なんかグダグダで、上映時間がわずか1時間半であるにもかかわらず、とてつもなく長く感じられた。
主人公は子供であるが、映像自体は年少者には見せたくないほど汚らしい。全編これ魚の腐臭と工場廃液の鼻にツンとくる空気が充満しているような画面で、その中をボロを纏った登場人物達がノロノロと動き回るという、絵的には最も敬遠したい造型のオンパレードだ。
ハッシュパピーに扮したクヮヴェンジャネ・ウォレスは史上最年少でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたが、大した演技もしていない。この程度の子役はアメリカには山のようにいるはずだ。父親役ドワイト・ヘンリーをはじめとする他のキャストにもロクな奴はいない。唯一興味を惹かれたのが作者ザイトリンによる音楽で、メロディ・ラインのきめ細やかさが光る。今後は演出には手を出さず、映画音楽に専念してほしいものだ。