元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「FAN」

2017-09-29 06:19:07 | 映画の感想(英数)
 (原題:FAN )アジアフォーカス福岡国際映画祭2017出品作品。2016年製作のインド=クロアチア=イギリス合作。インド映画にしては138分と上映時間が短く、しかも歌と踊りのシーンが無い。だが、娯楽映画としては上出来で、とても面白く観た。ロバート・デ・ニーロ主演の「ザ・ファン」(96年)にも通じる設定ながら、違う切り口で作劇を練り上げている。

 デリーの下町に住む青年ゴゥラヴは、スーパースターのアーリヤンの熱狂的なファン。容姿も若いころのアーリヤンによく似ており、町内の“そっくりさん大会”ではいつも優勝していた。そんな彼の夢は、アーリヤンの誕生日に駆けつけ、お土産を渡してハグしてもらうことだった。ムンバイまで出向いてアーリヤンに会おうとしたゴゥラヴだが、そんなに上手くいくわけがない。



 警備員につまみ出された彼は、逆恨みしてアーリヤンに対して妨害工作をおこない、警察に捕まってしまう。アーリヤンの計らいで起訴は免れるが、ゴゥラヴの一途な想いはますます彼を常軌を逸した行動に駆り立てる。ついにはヨーロッパ公演中のアーリヤンをつけ回し、テロ同然の暴挙に出る。

 本作の一番の見どころは、アーリヤンとゴゥラヴをシャー・ルク・カーンが一人二役で演じていることだ。これは単に、キャスティングの目新しさを狙ったものではない。成功者とドロップアウトした人間を同一人物が演じることで、環境や本人の資質が生き方を決定付けていることを、残酷なまでに描き出すことに成功している。

 今まではシャー・ルクのスターとしての存在感は承知していたが、演技に感心したことはほぼ無かった。ところが本作では目を見張るパフォーマンスを披露している。演技賞も狙えるほどのヴォルテージの高さだ。マニーシュ・シャルマーの演出はテンポが良く、ドラマの流れが途切れることは無い。

 特に感心したのが活劇場面で、全盛期のジャッキー・チェンの諸作を彷彿とさせる肉体アクションが炸裂する。今回は一人二役なので編集の巧拙がモノを言うのだが、これが実にスムーズだ。ロンドンやクロアチアのドゥブロヴニクといった観光名所も存分にフィーチャーされるが、終盤は舞台がデリーに戻り、ラストの処理はホロ苦さが漂う。

 インドの娯楽映画といえば女優陣が魅力的であることも重要ポイントであるが、今回はいつもの“美人系”よりも、ゴゥラヴのガールフレンドを演じるシュリヤー・ピルガオーンカルや、アーリヤンのマネージャーに扮するサヤーニー・グプターなどの“カワイイ系”を前面に出しているのも見どころだ。日本での一般公開は未定だが、本映画祭の収穫の一つであることは間違いない。
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