(原題:How to Steal a Milion )66年作品。“午前十時の映画祭”のプログラムの一つとして今回初めてスクリーン上で観ることが出来た。名匠ウィリアム・ワイラー監督がこんなお手軽ラブコメを作っていたのかと驚いたが、配役や作品のカラーを考えれば文句を言うのも野暮であろう。少なくとも、公開当時はかなりウケが良かったことは想像できる。
パリに住む美術愛好家で収集家のシャルル・ボネは、その所有作品の多さで知られていた。しかもどれも一流作家の逸品ばかり。彼曰く、これらは父親が買い集めた遺品ということだが、実はすべてボネ自身による贋作である。彼はニセ物を作ることにかけては天才なのだ。一人娘のニコルは、普段から父親に阿漕な商売は止めるように忠告するが、ボネは聞く耳を持たない。
ある晩、ボネ邸にシモンという怪しい男が忍び込む。絵を盗もうとしていたところをニコルにあっさりと見つかってしまうが、けっこうイイ男なので(笑)彼女はその場は見逃す。一方、父が美術館に貸し出した贋作のビーナス像が専門家の鑑定を受けることになってしまい、そうなると偽物であることがバレてしまう。ニコルは鑑定される前に盗み出そうと考え、シモンと一緒に美術館に乗り込む。
ハッキリ言って、作劇のテンポは遅い。しかも、プロットは穴だらけだ。開巻前の時点でボネは贋作家として疑われても仕方がないし、一応“プロ”のシモンがボネ邸で呆気なくニコルに見つかるのも噴飯もの。美術館での盗みのテクニックは随分と御都合主義だ。誰にも目撃されずに隠れられるはずがないし、警備システムの裏をかくための“策略”は随分とお粗末だ。そもそも、舞台がパリなのに誰もフランス語をしゃべっていないのは不可解である(爆)。
しかしながら、オードリー・ヘップバーンとピーター・オトゥールという、稀代のスターが共演してしまうと、多少の欠点には目をつぶろうかという気分になる。ヘップバーンは撮影当時はとうに30歳を超えていたのだが、相変わらずキュートだ。ジバンシィの衣装が実によく似合う。オトゥールは史劇におけるカリスマぶりとは打って変わった軽妙さで、軟派な二枚目を楽しそうに演じている。
イーライ・ウォーラックやシャルル・ボワイエといった脇の面々も良い。ラストは強引だが、野暮は言うまい。音楽は何とジョン・ウィリアムズで、おそらくこれが映画デビュー作だと思うが、達者なスコアは早くも職人芸を感じさせる。