元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

原田伊織「明治維新という過ち」

2017-09-17 14:19:33 | 読書感想文
 正式タイトルは「明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」。今まで日本人の多くは、幕末期の勝者である薩摩・長州の“官軍教育”によって明治維新をポジティヴな視点で理解してきたが、歴史の実相はそうではなく、明治維新というのは薩長(特に長州)のテロによる暴力的なクーデターに過ぎなかった・・・・という内容の本だ。

 なるほど、着眼点は興味深い。勤王の志士の多くは“ならず者”であり、坂本龍馬は武器商人の片棒を担いでおり、戊辰戦争では薩長軍は狼藉三昧であり、対して佐幕派こそ合理的な考え方を有していたといった、従来の認識とは逆向きのベクトルで書かれている。まあ、いわゆる“勝てば官軍、負ければ賊軍”というのは古今東西共通の認識であるが、それをあえてひっくり返して論じるのも、そんなに珍しいことではないと思う。それを明治維新に関してやってのけた事が本書の目新しい点であろう。



 しかし、大上段に振りかぶった割には論証が成されていなかったり、感情論で書き飛ばしている部分が目立つ。それらの“ツッコミどころ”に関しては書評などのサイトで指摘されているはずだから、ここでは列挙しない。

 ただし個人的に気になったのが、薩長主体の明治政府が第二次大戦の敗北に繋がった点が詳説されていないことだ。“薩長こそが、諸悪の根源だぁ!”と決めつけられるほど、歴史というのは単純ではないだろう。そもそも、世界情勢は薩長のスタンスなんかお構いなしに展開していくものだ。

 また、明治維新が成功していなかったら日本はスイスや独立心の強い北欧諸国みたいになっていたという話は、あまりにもナイーヴに過ぎるのではないか。百歩譲ってそう断言したいのならば、その結論に至るモチーフをロジカルに組み上げて然るべきだが、本書にはそれは無い。単なる空想論に終わっている。

 たぶん特定の層はこれを読んで溜飲を下げるのだろうが、大して評価出来る内容ではない。とはいえ、歴史を多角的な視点から論考するのは(本書が述べるまでもなく)重要なことであるのは確かだ。
コメント
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