元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「三度目の殺人」

2017-09-23 08:25:12 | 映画の感想(さ行)
 面白くない。まず、弁護士役の福山雅治がダメだ。彼は何をやっても“フクヤマそのもの”であり、役になりきっていない。それでも、同じく是枝裕和監督と組んだ「そして父になる」(2013年)では、ぶっきらぼうに突っ立っているだけで何とかなる役柄だったこともあり、あまり欠点が見えてこなかった。しかし今回主演として映画を引っ張る側に回ると、途端に大根ぶりを露呈する。

 何しろ、共演の役所広司にはもちろん、広瀬すずにも負けているのだ。カッコつけていないで、たとえば年相応にショボくれたオッサンの役なんかをやって芸域を広げないと、演技者としての将来は危ういと思う(ミュージシャンとしての将来についてはノーコメント。彼の音楽には興味が無いので ^^;)。



 法廷での勝ち負けにしか関心の無い護士の重盛は、殺人の前科がある男・三隅の弁護を成り行きで担当することになる。容疑は解雇された工場の社長を逆恨みして殺害し、死体に火をつけたというもの。三隅は犯行を自供しており、死刑は確実だ。しかし三隅の動機はいまいち釈然とせず、供述内容もコロコロと変わる。やがて重盛は、本当に彼が殺したのかどうか疑うようになっていく。そんな中、重盛は被害者の娘である咲江が事件の背景を知っていると気付く。加えて死んだ社長の妻も、何やら訳ありだ。やがて、事態は思わぬ方向に転がっていく。

 既存のミステリー小説の映画化ではなく、是枝監督自身のオリジナル脚本である。その意気は良いのだが、やっぱり畑違いの感は拭えない。とにかくプロットが甘すぎる。この裁判におけるモチーフは、ほとんどが殺人犯とされる三隅の供述で占められている。状況証拠はあやふやだし、物的証拠に至っては皆無に近い。こんな有り様で法廷劇にリアリティを持たせようなどとは、無理な注文だ。

 弁護側と検察側とのやり取りは通り一遍であり、事件を捜査したはずの警察の影もない。勿体ぶった挙げ句の判決は気勢が上がらないものだし、ラストの主人公達のセリフも空疎なだけだ。ひょっとしたしら作者は、ミステリー的な興趣よりも“観ている者に考えさせること”を優先しているのかもしれないが、これだけ脚本の詰めが甘ければ“それ以前”の問題だろう。



 ただ、三隅役の役所広司は好演だ。彼のパフォーマンスがなかったら、途中退場していたかもしれない。咲江役の広瀬すず、弁護士仲間の吉田鋼太郎や満島真之介、検事に扮した市川実日子、いずれも良くやっている。また、斉藤由貴が出てきた時は役柄と昨今の彼女自身のスキャンダルがシンクロして思わずニヤリとした。

 瀧本幹也の撮影とルドビコ・エイナウディによる音楽も申し分ない。それだけに、画面の真ん中に居座る福山雅治があの体たらくなのは残念だ。出品されたヴェネツィア国際映画祭では無冠だったが、それも頷けるほどの低調な出来である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする