元・副会長のCinema Days

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「ザ・シークレットマン」

2018-03-17 06:23:32 | 映画の感想(さ行)

 (原題:MARK FELT:THE MAN WHO BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE)見応えのあるポリティカル・サスペンスだ。ウォーターゲート事件自体はよく知られているとはいえ、重要な役割を果たした当局側の人物に関して深く描かれた作品が今まで無かったこともあり、興味深く最後までスクリーンに対峙することが出来た。

 1972年5月。長らくFBIに君臨していたフーヴァー長官が死去。当然次は自分がトップになると思っていた副長官マーク・フェルトは、司法次官のパトリック・グレイが長官代理の座に就いた事実に愕然となる。同年6月、ウォーターゲート・ホテルの民主党本部に侵入した男たちが逮捕される事件が勃発。真相解明のため捜査を開始したフェルトだが、なぜかグレイから48時間以内の解決を命じられ、それ以降は打ち切られることが指示される。

 納得出来ないフェルトは、TIME誌やワシントン・ポスト紙に内部情報をリーク。マスコミによって事件の実行犯が元CIA職員であり、FBIが真相を隠蔽しているとの言説が広まる。そして大統領選直前になって、ワシントン・ポスト紙に“ディープ・スロート”と呼ばれる謎の内部告発者から得た情報に基づき、この事件は政権側によるスパイ工作であると断じた記事が掲載される。ジョン・D・オコーナーによるノンフィクションの映画化だ。

 アダム・キンメルのカメラによる寒色系の即物的な映像、ダニエル・ペンバートンによる緊迫感のある音楽により、ドキュメンタリー・タッチの迫力あるエクステリアを獲得している。ピーター・ランデズマンの演出に弛緩したところは無く、観る者をグイグイと引き込んでゆく。

 実は、主人公フェルトがこういう所業に及んだ理由は分かっていないという。本作においても明示されていないが、それでも彼の複雑な胸中は上手く表現されている。

 確実視されていたポストが外部の者に奪われたこと、FBI捜査官としての矜持、そしてちゃんと育ててきたはずの娘が家出して行方知れずになり、今までの社会常識が通用しない時代を肌で感じていること等、さまざまな想いが渦巻き、結果的に自身の信念を貫くことを選んだ主人公像を、リーアム・ニーソンは見事に演じている。ダイアン・レインやジョシュ・ルーカス、トム・サイズモア、ジュリアン・モリスといった脇のキャスティングも渋い。

 それにしても、この事件が明るみに出たような筋書きは今の日本で達成可能なのか、心配になってくる。特定秘密保護法の制定をはじめとする、異論を許さないトレンドが見受けられることは愉快になれない。それでなくても、同調圧力の強い国民性ではある。
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