87年作品。ノーブルな良作である。宮本輝原作で芥川賞の受賞作の映画化だが、同作家の映像化作品の中では、最も納得出来る仕上がりだ。しかも、終盤には映像的スペクタクルも控えており、エンタテインメントとしても十分存在感はある。
昭和37年。富山県の山間の町に住む14歳の水島竜夫は、クラスメートで幼馴染の辻沢英子への想いと、高校受験に対する不安、そしてシビアな家庭事情によって悩み多き日々を送っていた。父親の重竜は終戦直後に事業で成功を収め、随分と羽振りが良かったが、いつしかその才覚は失われて今は借金取りに追われる境遇だ。竜夫の母の千代は重竜の二番目の妻で、重竜は千代の妊娠を知った途端、何の躊躇もなく前妻と離縁した。それでも重竜は良い父親になろうとしてきたが、ある時病に倒れる。
そして次々と竜夫の周りの人間が過酷な運命に翻弄されるが、彼はある言い伝えを糧に何とか生きようとする。それは、4月に大雪の降った年は川の上流で蛍の大群が発生し、その光景を一緒に見た男女はやがて結婚するというものだ。その年、桜の咲く頃になっても雪は降り続いた。夏になると重竜の知り合いの銀蔵は今年こそ蛍の大群が見られると張り切り、竜夫と英子、千代を連れて、川の上流に向かう。
時代は高度成長期に入りかけ、重竜のように“野生のカン”だけで生きてきた経営者は淘汰され、管理社会にふさわしい人材だけが生き残ってゆく。それでも重竜一家の佇まいは、失われつつある古き良き家庭の有り様を表現している。一方、千代の大阪に住む兄は竜夫に上阪して自分の事業を手伝うように勧める。これから必要とされるのは、この伯父のような如才ない人物であることは竜夫にも分かるが、それでも少年の心は揺れ動く。
藻掻きつつも、自然と大人への階段を上っていく竜夫には、観ていて大いに共感出来る。彼の成長を象徴するのが、終幕近くに現出する螢の乱舞だ。このシークエンスがSFXで撮影されたことを知ってはいたが、実際観ると想像以上に素晴らしいものだった。
当時の日本映画で、これほどSFXが成功した例はおそらく他に無かったのではないか。まるで天の川である。この映像を作り上げたのは、後に大作をいくつも手掛ける川北紘一で、その手腕はこの頃から光っていた。須川栄三の演出は落ち着いてはいるが、決して弛緩していない。最後まで無理なく観客を引っ張る。
竜夫役の坂詰貴之と英子に扮する沢田玉恵は好演だが、それよりも周りを固める大人の役者の確かな仕事ぶりが印象的だ。三國連太郎に十朱幸代、奈良岡朋子、川谷拓三、大滝秀治、河原崎長一郎、殿山泰司など、いずれも申し分ない。姫田真佐久のカメラと篠崎正嗣の音楽も及第点だ。
昭和37年。富山県の山間の町に住む14歳の水島竜夫は、クラスメートで幼馴染の辻沢英子への想いと、高校受験に対する不安、そしてシビアな家庭事情によって悩み多き日々を送っていた。父親の重竜は終戦直後に事業で成功を収め、随分と羽振りが良かったが、いつしかその才覚は失われて今は借金取りに追われる境遇だ。竜夫の母の千代は重竜の二番目の妻で、重竜は千代の妊娠を知った途端、何の躊躇もなく前妻と離縁した。それでも重竜は良い父親になろうとしてきたが、ある時病に倒れる。
そして次々と竜夫の周りの人間が過酷な運命に翻弄されるが、彼はある言い伝えを糧に何とか生きようとする。それは、4月に大雪の降った年は川の上流で蛍の大群が発生し、その光景を一緒に見た男女はやがて結婚するというものだ。その年、桜の咲く頃になっても雪は降り続いた。夏になると重竜の知り合いの銀蔵は今年こそ蛍の大群が見られると張り切り、竜夫と英子、千代を連れて、川の上流に向かう。
時代は高度成長期に入りかけ、重竜のように“野生のカン”だけで生きてきた経営者は淘汰され、管理社会にふさわしい人材だけが生き残ってゆく。それでも重竜一家の佇まいは、失われつつある古き良き家庭の有り様を表現している。一方、千代の大阪に住む兄は竜夫に上阪して自分の事業を手伝うように勧める。これから必要とされるのは、この伯父のような如才ない人物であることは竜夫にも分かるが、それでも少年の心は揺れ動く。
藻掻きつつも、自然と大人への階段を上っていく竜夫には、観ていて大いに共感出来る。彼の成長を象徴するのが、終幕近くに現出する螢の乱舞だ。このシークエンスがSFXで撮影されたことを知ってはいたが、実際観ると想像以上に素晴らしいものだった。
当時の日本映画で、これほどSFXが成功した例はおそらく他に無かったのではないか。まるで天の川である。この映像を作り上げたのは、後に大作をいくつも手掛ける川北紘一で、その手腕はこの頃から光っていた。須川栄三の演出は落ち着いてはいるが、決して弛緩していない。最後まで無理なく観客を引っ張る。
竜夫役の坂詰貴之と英子に扮する沢田玉恵は好演だが、それよりも周りを固める大人の役者の確かな仕事ぶりが印象的だ。三國連太郎に十朱幸代、奈良岡朋子、川谷拓三、大滝秀治、河原崎長一郎、殿山泰司など、いずれも申し分ない。姫田真佐久のカメラと篠崎正嗣の音楽も及第点だ。