(原題:THE OLD MAN & THE GUN)若い頃のロバート・レッドフォードの仕事ぶりをリアルタイムで知っている映画ファンにとっては、大いに魅力を感じる映画だろう。しかし、それ以外の観客、特に若い層にすれば単なる“年寄りが無茶をする映画”でしかなく、退屈そのものだ。かくいう私は全盛時のレッドフォード(それも最後期)をかろうじて知っている世代に属しているので、何とか楽しめた。
80年代に紳士的な犯行スタイルで銀行強盗を繰り返し、逮捕・収監されると何度も脱獄を成功させたフォレスト・タッカーという男がいた。被害者のはずの銀行の窓口係や支店長は、彼のことを恨むどころか“とても礼儀正しかった”と口々に誉めそやす始末。所轄のジョン・ハント刑事は彼を追うが、同時にフォレストの自由な生き方に惹かれていくのだった。
フォレストは逃走の途中でジョエルという初老の女性と知り合い、仲良くなる。彼女は相手が堅気ではないと感じながらも、心を奪われてしまう。やがてフォレストは仲間のテディとウォラーと共に、金塊を強奪する大仕事を成功させる。しかし、思わぬところから足が付き、窮地に追い込まれる。デイヴィッド・グランによる実録小説の映画化だ。
クライム・サスペンスとしては、随分と生ぬるい出来である。フォレストがいくら誰も傷付けずに金をせしめたといっても、拳銃を見せて相手を威嚇したことは事実だ。それがどうして“紳士的”という評判に繋がったのか、説明が成されていない。ジョエルがフォレストに惚れた理由もよく分からないし、ハント刑事がフォレストにシンパシーを感じる背景も提示されない。
デイヴィッド・ロウリーの演出は悠長で、93分とコンパクトな尺ではあるが、カチッとまとまっている印象は無い。しかし、この役をレッドフォード御大が演じてしまうと、何となくサマになってしまうのだ。さらに彼の若き日の写真や、過去の出演作の場面が挿入され、颯爽と馬に乗るシーンだってある。これなら往年のファンは満足してしまうだろう。
シシー・スペイセクにケイシー・アフレック、ダニー・グローヴァー、トム・ウェイツといった脇の面子も良い。ジョー・アンダーソンのカメラによる中西部の風景も魅力的だ。なお、ハント刑事の妻が黒人(ティカ・サンプター)であるのは印象的だった。ハントのリベラル的なスタンスを強調したかったと思われる。