(原題:WELCOME TO MARWEN )ロバート・ゼメキス監督のオタク趣味が全面展開している怪作だ。考えられるだけのプロットの捻りと映像ギミックを駆使しているが、実話をベースにしたヒューマンドラマという基本線を踏み外していないという点が評価出来る。
イラストレーターだったマーク・ホーガンキャンプは、ある日5人の男達に暴行されて瀕死の重傷を負い、一時期は昏睡状態に陥る。目覚めたときには、彼は自分の名前も覚えていないばかりか、身体の自由さえ効かない状態であった。重度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむマークだったが、リハビリを兼ねて始めたのが、フィギュアの撮影だった。自宅に作った空想の世界“マーウェン”では、ホーギー大佐と5人の女性戦士がナチス親衛隊と日々戦いを繰り広げていた。
マークはその様子を写真に収めて発表するが、それが評判を呼び個展まで開かれることになる。それでも、暴行事件の裁判で証言しようとすると、事件の記憶がフラッシュバックして上手くいかない。そんな中、向かいの家にニコルという赤毛の女が引っ越して来て、マークは一発で気に入ってしまう。ニコルと同じ赤い髪のフィギュアを購入し、“マーウェン”の主要キャラクターとして登場させる始末だ。脳に障害を負った実在のフォトグラファーであるホーガンキャンプを描いたドラマである。
“マーウェン”で起きる出来事はCGで作成した人形が“演じて”いるのだが、それらは生身の人間と微妙にクロスする。マーク自身であるホーギー大佐は何度も人種差別のメタファーであるナチスを駆逐するのだが、倒した相手はすぐに生き返り、彼は“終わりなき日常”を生きるしかない。その世界観を統括しているのが魔女のデジャ・ソリスで、これがマークが抱えるトラウマが具現化した姿である。
ドラマは実世界で何とか前に進もうとするマークの姿と、“マーウェン”におけるホーギー大佐とデジャ・ソリスとの戦いを同時進行させる。図式的と言えばそうなのだが、これがけっこう面白い映像を提供することになる。
“マーウェン”でのバトルはゼメキスの面目躍如で、畳み掛けるような筆致が光る。特に、デロリアン風のタイムマシンが登場するシーンは笑えた。ラストでも問題は全て解決するわけではないが、マークの境遇も落ち着くところに落ち着き、後味は良い。主役のスティーヴ・カレルは好演。レスリー・マンにジャネール・モネイ、ダイアン・クルーガーといった脇の面子も良い仕事をしている。