(原題:THE BOY WHO HARNESSED THE WIND)題材は興味深く、展開に破綻は無い。キャストは皆好演だし、メッセージ性も万全だ。学校の体育館などで生徒たちに見せるには格好の作品かと思う。しかしながら、手練れの(?)映画ファンとしては物足りない。もっと精緻なドラマツルギーが欲しいところだ。
2001年、アフリカ大陸南東部に位置する最貧国のひとつであるマラウイを大干ばつが襲う。農村に住む14歳のウィリアムは、飢饉による貧困で学費を滞納し、中学校を退学させられる。それでも勉強熱心な彼は、こっそりと学校の図書館に通い、自学自習に励む。彼はそこで一冊の本に出会う。それは風力発電に関する書物で、村にその設備を作れば、乾いた畑に水を引くことが可能になる。
早速彼はプロトタイプを作成してラジオを鳴らすことに成功するが、父親はそんなウィリアムの行動を理解しない。干ばつによる被害は大きくなり、村では略奪が発生し、政府に惨状を訴えた族長は暴行に遭い、学校も閉鎖されることになる。風力発電を可能にするには、父親が所有している自転車の部品が必要だ。ウィリアムたちは必死で父親を説得しようとする。実在の人物ウィリアム・カムクワンバを描いたノンフィクション(2010年出版)の映画化だ。
まず、映画の焦点が主人公の風力発電機の開発ではなく、主にマラウイの苦境の描写に向けられていたことに違和感を覚える。確かに、21世紀に入っても電気も水道も無い不自由な生活を強いられている人々がたくさんいることは問題だ。そして、不穏な政情が国民を苦しめていることも憂慮すべきことだ。
しかし、それらは映画の核心ではない。題名通り、これは“風をつかまえた少年”の話のはずである。舞台背景ばかりに重きが置かれると、肝心のモチーフが描出不足になる。風力発電のメカニズムとは何か、果たして自転車のダイナモで用が足せるのか、一つの井戸から水を汲み出すことに成功しても、それで解決出来たのか等々、こちらが知りたいことは何も示されない。また、一見リベラルで、実は頑固だという父親のキャラクターがハッキリしていないのも不満だ。
とはいえ父親役で出演しているキウェテル・イジョフォーは俳優として実績を積んではいるが、監督はこれが初めて。要領を得ない部分があるのは仕方が無いとも言えるし、第一作で取り敢えず手堅くまとめたのは評価すべきかもしれない。ウィリアムを演じるマックスウェル・シンバは健闘しているし、他の出演陣も良い。広大なアフリカの景色と、葬式時に出てくる民族衣装の者達の扱いは目を引いた。