元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛を読むひと」

2009-07-07 06:28:37 | 映画の感想(あ行)

 (原題:The Reader)観終わってみれば釈然としないものを感じる。15歳の少年と関係を続けたヒロインは、文盲であったという設定だ。だが、字も読めない者に路面電車の車掌が務まるのだろうか。停留所名も標識に書いてある注意指示も分からないのならば、仕事にならないはず。いくら内勤でないとはいえ、社内文書は回ってくるはずだし作業日報だって作成しなければならない。文盲にはハードルが高すぎる職務であり、到底作劇面では納得出来ない筋書きだ。

 そして、後半戦犯として獄中で暮らす彼女は、主人公から送られる朗読のテープを元に字を覚えるのであるが、これは彼女が学ぼうと思えばいつでも勉強出来たことを意味する。つまりは識字障害などのメンタル面での問題は存在せず、単に怠惰で要領が悪かっただけなのだ。

 加えて言えば、彼女が戦時中に収容所の看守をやっていたというのも納得出来ない。字が読めなくては上官の命令を遂行することも困難を極めたはずだ。少なくとも、文盲であることを隠し通せたとは思えない。ハッキリ言って、この設定自体に無理があり“語るに落ちる”レベルのものである。

 ならばそれを採用した背景はといえば、エンドクレジットにずらりと並ぶユダヤ系と思しき名前の数々が暗示している。ナチス・ドイツは看守に文盲の女性を使うほどいい加減な組織だった・・・・とでも言いたいのだろうか。終盤でのヒロインの行動が納得できないのも、ユダヤ側のルサンチマンを解消させるためだったと思わせてしまう。筋書きやシチュエーション全体が“ためにする”ものであり、これでは観る側の心に届かない。

 さらに愉快になれないのは、セリフが全編これ英語であることだ。もちろんアメリカ資本による作品なので仕方が無いとも言えるのだが、ヒロインが言葉を覚えていく過程でテキストになるのが母国語ではないってことは、主題を“軽く”見ていると取られて当然だ。言語に対する畏敬の念を初めて抱く対象が外国語では、シャレにならない。

 スティーブン・ダルドリーの演出は丁寧で、クリス・メンゲスとロジャー・ディーキンスという名カメラマンを二人も起用した格調の高い映像は見所たっぷりだが、それだけで感動するわけにはいかないのだ。なお、本作でオスカー受賞のケイト・ウィンスレットはさすがの存在感。仕草の一つ一つに不遇な女の生き様を匂わせており、そして何よりあの若くはない身体がモノを言う。相手役の新鋭デイヴィッド・クロスもなかなかの逸材だ。

 ただし、彼が長じてレイフ・ファインズになるというのは、どうも納得できない。ファインズはドイツ人には見えないのだ(あたり一面に英国臭さを発散している)。別のキャスティングを考えるべきだったと思う。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウォークマン発売から30年。

2009-07-06 06:28:58 | プア・オーディオへの招待
 ヘッドフォンステレオの先駆けとなったSONYのウォークマンが発売されてから、この7月でちょうど30年になる。ウォークマンの誕生は、SONYの創業者の一人である故・井深大が出張時に飛行機の中で聴ける携帯用ステレオが欲しいと言ったのがきっかけらしい。初代のウォークマンは33,000円で、単体のカセットデッキにも迫る価格であったにもかかわらず、そのコンセプトの斬新さから実に良く売れた。ウォークマンはその後も進化を続け、カセットテープからCD・MDなどへ媒体を移しながら、前年度までの累計で約3億8500万台を売り上げている。

 しかしながら、21世紀に入るとアップル社のiPodの登場により優位性が完全に崩れてしまう。インターネット環境を視野に入れたiPodが、従来のパッケージ形式の音楽ソフトの延長線上でしか展開できなかったウォークマンに水を空けたのは、至極当然と言うべきだろう。



 個人的な話になるが、私はウォークマンには発売当初から興味はなかった。もちろん一度も所有したことはない。いくら携帯型として良く練られているとはいっても、所詮はホームオーディオの代用品である。何が悲しくて、外出先で家にあるオーディオシステムよりも低レベルの音を聴かなくてはならないのか。要するにあれはヘッドフォンステレオと大して音質のレベルが変わらない“安かろう悪かろう”のオーディオシステムしか自宅に持っていない層のためのオモチャであると、勝手に思っていた。

 ところが、かく言う私もiPodは購入しているし、自室のオーディオシステムに接続するたけではなく、最近はたまに外出先やウォーキング中に愛用している。もちろん単体のCDプレーヤーを通したオーディオシステムよりは音質は落ちるが、iPodにはそれをカバーできる利便性とユーザー・インターフェースの洗練度がある。

 ウォークマンの凋落は、商品のクォリティとしての進歩はあったが、コンセプト自体のイノベーションが不足していたからだと考えられる。井深大の要望を現実化させた技術力は大したものだが、逆に言えば企業のトップからの提案以外には商品開発のモチベーションが無かったのではないか。井深大の希望がたまたま一般ユーザーのニーズと合致しただけではないのかと思ってしまうのだ。



 ウォークマンの一件に限らず、SONYというのは技術偏重の企業である。自分たちはこういう新技術を開発した、凄いテクノロジーだから誰でも瞠目するはずだ、さあ買った買った・・・・というようなスタンスである。良く言えば自信満々、悪く言えば夜郎自大。一般ユーザーの都合を考えない商品開発は、しばしば市場からNOを突きつけられる。ベータマックスしかり、古くはLカセットやパルス電源方式のアンプ類しかりである。CDの考案にも大きな役割を果たしていながら、一般に普及させたのはSONYではなくもう一方の開発元であるPHILIPS社だったのも象徴的だ。

 今年発売される新型のウォークマンは多機能を誇る意欲作だという。しかし、それをもってしてもiPodの牙城は崩れないと思う。コンセプト面での新しい提案がなければ、いくら既存の方法論をリファインしても“本家”には追いつけない。ましてや井深大のような卓越した経営者が払底している今、SONYの復権は遠いものだろう。もちろんこれはSONYだけではなく他の国内大手オーディオメーカーにも言える。使用者の立場を考えない独善的な商品展開を漫然と続けていると、長期低落傾向に歯止めが掛からなくなる。いい加減、新技術のお披露目に終始するマーケティングを見直して欲しいものだ。ユーザーが求めているのは“良い音”と、それに付随する“使い勝手”なのである。テクノロジー云々は二の次・三の次で結構だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ターミネーター4」

2009-07-05 07:14:34 | 映画の感想(た行)

 (原題:Terminator Salvation)予想通り、つまらない。監督が「チャーリーズ・エンジェル」などを撮った“外見的な派手さ”だけが身上のマックGだと聞いた時点で、結果が分かっていた。ならば観なければ良かったじゃないかと言われそうだが、そこは前作までシリーズを追った関係上、単なる“惰性”というやつである(笑)。最近は個人的事情により映画館に足を運べる時間が限られてきたので、明らかに低調な出来映えが予想されるシャシンは鑑賞リストから除外しようと考えている今日この頃だ。

 まず何がダメかというと、当シリーズの特徴であるタイムスリップをネタにしたSF色が完全に払拭され、単なる賑々しいドンパチ映画に終わっていることだ。いや、正確に言うと素材としてのタイムリープは一応挿入はされている。でも、この“過去からやってきた男”であるというサム・ワーシントン扮するマーカスの位置付けが最後まで分からない。

 彼は元・死刑囚だったが、何かの実験に参加させられるために“改造”された後に別の時間軸へ送られる。ところがその意図に合理性はない。一応ラスト近くで説明らしきものが示されるが、辻褄は合わないままだ。終わってみれば作劇上で“ちょっと変わった戦闘能力を持つキャラクター”として扱われるのみである。それならば最初からタイムスリップなんて扱わない方が数段マシだった。

 他にも筋書きには突っ込み所は散見されるが、いちいち指摘する気にもならない(爆)。それでも戦闘場面が優れているならばあまり文句は出ないところだが、これがどうも気勢が上がらない。最終戦争後の荒涼とした地上で展開するバトルは、明らかに「マッドマックス」シリーズのエピゴーネンであり新鮮味はない。彩度を落とした画調もワザとらしく思える。CGを多用した映像はハデだが、それほど驚くようなアクションの段取りは見当たらない。ガチャガチャとうるさいだけの一本調子な展開は、しばらく見ているといい加減飽きてくる。

 だいたい劇中にはスカイ・ネットの本拠地はサンフランシスコにあるという設定ながら、実態はただの“新型ターミネーター製造工場”でしかなく、そいつを潰しても果たして大勢に影響が出てくるのか不明だ。相手方の基本的スタイルと人類側の体制を詳説することから始めた方が良かったのではないだろうか。

 クリスチャン・ベールやブライス・ダラス・ハワードなどのキャストも魅力無し。ならばということで終盤には“あの人”まで引っ張り出してくるが、これも“何を今さら”という感じだ。ハッキリ言ってこのシリーズは二作目で完結している。あとは蛇足であり、今後続編が作られるとしても観なければならない理由はなさそうだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする