元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」

2022-06-11 06:15:05 | 映画の感想(た行)
 (原題:DOCTOR STRANGE IN THE MULTIVERSE OF MADNESS )この映画を楽しめるには、条件が2つあると思う。ひとつは、本作の“前日譚”のようなディズニー提供のテレビミニシリーズをチェックしておくこと、そしてもうひとつは、監督サム・ライミの持ち味を承知した上で、それを無条件で許容出来ることだ。なお、私は2つともクリアしていないので、当然のことながら評価は低い。

 「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(2021年)で禁断の呪文によって時空を歪ませてしまったドクター・ストレンジことスティーヴン・ストレンジだが、マルチバースの“暴走”は留まることを知らず、今や世界的危機にまで発展してしまった。かつて恋仲であったクリスティーン・パーマーの結婚式に出席していた彼は、突如現れた一つ目の怪物と対峙する。その怪物が狙っていたのはアメリカ・チャベスと名乗る少女だったが、彼女はスティーヴンが前夜に見た夢に出てきたキャラクターだった。



 チャベスはマルチバースを移動する能力を持っているらしく、この混乱した事態に対処出来るキーパーソンになるかもしれない。そんな中、スティーヴンの前にマルチバースを利用するために立ちはだかったのは、スカーレット・ウィッチことワンダ・マキシモフだった。

 唐突にワンダが悪役に回った事情は、くだんのテレビシリーズで説明されているらしいが、こちらは知ったことではなく、ただ困惑するだけである。ワンダの“家族”に関しても、本作を観ている限り全く要領を得ない。そんな彼女が、ストレンジだけではなく異次元に移動してのヒーロー諸氏相手の大立ち回りを見せるのだが、カタルシスとは無縁だ。そもそもアメリカ・チャベスというキャラクターの登場自体、唐突に過ぎる。

 後半は各マルチバースに存在するストレンジと対立したり共闘したりといったバトルロワイアル状態になるが、その中にゾンビ版ストレンジも混じっていて、映画は一気にライミ監督の出世作「死霊のはらわた」シリーズの再現モードに突入。これは作者が楽しんで撮っていることは分かるのだが、困ったことにヴォルテージは「死霊のはらわた」(特に第二作)に遠く及ばない。単に過去にやったことを繰り返しているだけだ。

 この懐メロ路線(?)の展開だけで喜んでしまう往年のホラー映画ファンならば話は別かもしれないが、多くの観客は戸惑うばかりだろう。終盤の扱いなど、まるでドラマを乱雑に放り投げたような感じだ。

 ベネディクト・カンバーバッチにエリザベス・オルセン、キウェテル・イジョフォー、ベネディクト・ウォンといったレギュラーメンバーには新味は無い。チャベス役のソーチー・ゴメスも“華”に欠ける。観終って、果たしてマルチバースというモチーフがマーベル映画にとって有効だったのか、かなり疑問に思えてきた。
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「鳩の撃退法」

2022-06-10 06:20:51 | 映画の感想(は行)
 2021年作品。佐藤正午による原作小説は読んでいないが、まさかこれほど面白くないとは想像しがたい。とにかく、本作はまるで映画になっておらず訴求力はゼロだ。プロデューサーは脚本のチェックをしていなかったのだろうか。あるいは、監督の人選を誰かに丸投げしていたのかもしれない。とにかく、斯様な企画が通ってしまったこと自体、邦画界の“闇”みたいなものを感じずにはいられない。

 直木賞作家の津田伸一は、都内のバーで担当編集者の鳥飼なほみに執筆中の新作小説を読ませていた。有名作家の作品にいち早く目を通すことが出来て喜んでいる鳥飼だったが、津田の話を聞いていると、小説の内容が単なるフィクションとは思えなくなってくる。

 その小説の中身だが、主人公の津田は富山市でデリヘルの運転手を勤めているという設定だ。貧乏暮らしで、知り合いの古本屋の主人に借りた3万円すら返せない有様。ある日、彼は行きつけの喫茶店で毎晩小説を朝まで呼んでいる秀吉という男に声を掛ける。それが切っ掛けになり、津田は地元の暴力団員などが横行する剣呑な世界に足を突っ込むことになる。

 現実とフィクションとをトリッキィに交叉して描きつつ、その中に犯罪サスペンスを織り込んで盛り上げていこうという狙いは分かるが、あまりにも作劇が低レベルなので観ている間は眠気との戦いに終始する。各シークエンスがバラバラに配置されているだけで、互いの相乗効果は見出せない。しかも、それぞれのドラマがさっぱり面白くない。

 主人公の行動目的は不明で、周囲のキャラクターも何をどうしたいのか分からないまま、上映時間だけが過ぎていく。終盤にはドンデン返しみたいな展開も見られるのだが、段取りが不十分であるため自己満足しているのは作者だけみたいな案配だ。

 タカハタ秀太(脚色も担当)の演出は冗長で、テンポが悪くメリハリに欠ける。主役の藤原竜也をはじめ、風間俊介に佐津川愛美、坂井真紀、濱田岳、ミッキー・カーチス、リリー・フランキー、豊川悦司、森カンナなど悪くない面子を揃えているだけに不満が残る。もっとも、土屋太鳳に西野七瀬という演技力がアレな者たちも起用されているのでキャストは万全ではないが・・・・。
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「目指せメタルロード」

2022-06-06 06:19:37 | 映画の感想(ま行)

 (原題:METAL LORDS )2022年4月よりNetflixにて配信。ジャンルとしては私が好きな“学園音楽もの”だが、幾分薄味で興趣には欠ける。もっと突っ込んだディープさを醸し出して欲しかった。とはいえ、作品の雰囲気とキャラクター設定は悪くはないので、あまり深く考えずに画面に対峙していれば退屈せずに約1時間半を過ごすことが出来る。

 オレゴン州ポートランドの高校に通うケヴィンは、体育の授業が免除されるからという理由でマーチングバンドで太鼓を叩いてる冴えない奴。その友人のハンターも、ギターが得意なだけのパッとしない生徒だ。2人には他に友だちもおらず孤立しているように見えるが、実はヘヴィメタルに心酔しており、バンドバトルでトップを取ることを目指している。だが、バンドにはベーシストがいない。そこで目を付けたのがメンタルが危うい女生徒のエミリー。とはいえ彼女が担当しているのはベースではなくチェロなのだが、低音パートならばそう変わらないとばかりに、無理矢理に仲間に引き入れてしまう。

 落ちこぼれ共が頑張って大舞台で活躍するという、絵に描いたようなスポ根のルーティンを踏襲しているものの、訴求力は今ひとつだ。それは主人公たちがメタルが好きでたまらないという、一種狂気的な情念が伝わってこないこと。それぞれ屈託を抱えているにも関わらず、その捌け口が音楽としてダイレクトに伝わってこないもどかしさを感じる。もっと破天荒に、後先考えず突っ走っても良かったのではないか。音楽ネタを取り上げている割には、演奏シーンがそれほど多くないのもマイナスだ。

 しかしながら、クライマックスの“大仕掛け”はハンターの鬱屈していた想いが爆発しているようで、観ていてカタルシスを感じる。使われている楽曲は主にオールドスクールのハードロックなので、若年層よりも私のようなオッサン世代向けだとは言えるが(笑)、それでも観ていて楽しい。

 圧巻は、主人公の“幻想シーン”にアンスラックスのスコット・イアンやメタリカのカーク・ハメット、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロ、さらにはジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードといった大物たちが顔を揃えるくだりで、ロックファン以外の観客は何のことか分からないとは思うが、ロック好きにはたまらない場面だ。

 ピーター・ソレットの演出は派手さはないが、堅実にドラマを進めている。ジェイデン・マーテルにアイシス・ヘインズワース、エイドリアン・グリーンスミス、スーフィ・ブラッドショウといった若手中心のキャストはまったく馴染みが無いが、それぞれ良くやっている。それにしても、ケヴィンたちのバンド名が“スカルファッカー”というのは、いくら何でもトバシ過ぎだろう。これで女子のメンバーの加入が実現したのは、まさに奇跡に近い(笑)。
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「女子高生に殺されたい」

2022-06-05 06:22:36 | 映画の感想(さ行)
 いかにもキワモノ臭いネタを扱った映画で、普通ならば敬遠するようなシャシンだが、そこは城定秀夫監督、見応えのあるサスペンス編に仕上げていた。さらには原作が快作「帝一の國」などの古屋兎丸なので、よく考えれば駄作にはなりそうもない陣容だ。上映館の数は少ないものの、もっと注目されて良い作品である。

 地方都市の高校に赴任してきた若手教師の東山春人は、その甘いマスクとマジメな仕事ぶりにより、瞬く間に生徒たちから絶大な人気を得る。ところが彼は、とある女生徒に殺されたいという特異な欲望を持っており、そのために彼女が在籍するこの学校に入り込んだのだ。しかも文化祭の当日に彼が理想とする手口で最期を迎えるべく、周到に準備を進める。しかし、春人の元恋人で臨床心理士の深川五月がスクールカウンセラーとして着任するに及び、彼の計画は揺らぎ始める。



 自分が殺されることに性的興奮を覚える精神疾患なんか有り得ないと思っていたら、このオートアサシノフィリアという嗜好は実在するらしい。それは別にしても、主人公の春人はこのテイストに現実感を持たせるに相応しいキャラクターだ。演じる田中圭はまさに絶好調で、困難にぶち当たっても計画を遂行させるべく身悶えして粉骨砕身する有様は、変態俳優として目覚ましい存在感を発揮している(注:これはホメているのだ ^^;)。

 くだんの女生徒が、春人を取り巻く女子の中の一体誰なのかというサスペンスは十分に盛り上げられており、彼女が殺意を露わにするシチュエーションの段取りも上手くいっている。城定秀夫の演出には弛緩した部分が感じられず、適度なケレンを織り交ぜつつ、飽きさせずにエンドマークまで観客を引っ張ってゆく。

 生徒に分するキャストの中では、何と言っても南沙良のパフォーマンスが光る。複雑なキャラクターだが、見事に役柄を自家薬籠中のものにしており、この年代の女優としては飛び抜けた実力の持ち主だ。茅島みずきに莉子、細田佳央太などの他の生徒役も悪くない。ただし、出番が多い河合優実の演技は硬くて感心しない。今後の精進に期待したい。五月に扮する大島優子は安定しており、すっかり手堅いバイプレーヤーとしての地位を手にしたようだ。また、世武裕子の音楽も効果的である。
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「モービウス」

2022-06-04 06:13:30 | 映画の感想(ま行)
 (原題:MORBIUS )特段手応えのある映画ではないが、ストレスフリーで画面に向き合い退屈せずに1時間40分ほどを過ごすことが出来た。ホラーテイストが苦手な観客ならば別だが、一般的な訴求力は高いのではないだろうか。マーベル映画ながら“一見さんお断り”のような態度が(ごく一部を除いて)見られないのもポイントが高い。

 ノーベル賞も獲得した医師のマイケル・モービウスは、幼いころから先天的な血液の難病を患っていた。彼には同じ病に苦しんでいるマイロという親友がいて、彼のためにも治療法を見つけるため日々頑張っている。やがてマイケルは、ある種のコウモリの血清がこの病気に効くのではという仮説を立てる。リスクを顧みずに彼は自らの肉体を実験台にして試すのだが、その結果、彼は超人的な能力を手にするものの、血液を飲まないと生きていけない身体になってしまう。一方、マイロはその血清の投与を強く希望していた。同じ頃、ニューヨーク市内では全身の血が抜かれた他殺体が次々と発見される。



 モービウスはマーベルコミックではスパイダーマンの敵役として登場するが、今回は(一応)スパイダーマン抜きで映画は進む。ひょんなことからスーパーパワーを得た主人公がその境遇に苦悩するという、ヒーロー物の定番を着実にトレースしている。敵役の設定は型通りで“安心”できるし、巻き込まれるハメになるヒロインも、ちゃんと用意されている。

 上映時間が短いせいか、主人公が罹患している疾病に関する説明が足りず、登場人物たちの行動が行き当たりばったりになる傾向はあるが、作劇のテンポが良いのであまり気にならない。ダニエル・エスピノーサの演出は活劇場面に力が入っており、画面の暗さをものともせずにスピード感に圧倒される。

 主演のジャレッド・レトは今回も役柄に応じて肉体改造じみたパフォーマンスを披露。いかにも現代によみがえったヴァンパイアの佇まいを再現していた。マット・スミスにアドリア・アルホナ、ジャレッド・ハリス、アル・マドリガルといった脇の面子も良い。

 そしてウケたのは終盤に“あの人”が登場する場面で、モービウスがマーベルの本流に今後どう関与していくか、興味は尽きない。オリバー・ウッドのカメラによる、ダークな映像世界の創出。そしてケレン味たっぷりだがその分効果的なヨン・エクストランドの音楽も、場を盛り上げる。
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「ようこそ映画音響の世界へ」

2022-06-03 06:19:56 | 映画の感想(や行)
 (原題:MAKING WAVES: THE ART OF CINEMATIC SOUND)2019年作品。興味深いドキュメンタリー映画だ。まず、題材を映画音響に特化している点が面白い。映画製作に関するドキュメンタリーは過去に数多くあったが、サウンドに着目したものは(私の知る限り)他には見当たらない。それだけでも存在価値はある。

 映画がトーキーになったのは1927年の米作品「ジャズ・シンガー」からだが、それから映画音響はコンスタントに進化を続けてきた・・・・と思ったら、実は少し違う。確かに技術革新により音響機材のクォリティは上がり、聴感上の物理特性は時代を重ねるたびにアップしてきた。しかし、真に映画的効果を狙ったサウンド展開が普及するようになったのは、意外にも70年代以降なのだ。まさにトーキー誕生から50年以上も経過している。



 それまでは映画の音響は基本モノラルで、サウンド・エフェクトといえば文字通り“効果音”でしかなかった。それが映画上映時の“音場”まで考慮されるようになったのは、サラウンドという考え方が一般化するようになってからだ。オーディオの世界では4チャンネル・ステレオが取り沙汰されるようになった時期で、ピュア・オーディオにおけるサラウンドは早々に廃れたものの、その方法論は映像再生時のノウハウとして定着した。そして今や音響効果は映画の質を左右するほどの重要性を獲得。

 本作はジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグ、デイヴィッド・リンチ、クリストファー・ノーランら監督陣をはじめ「スター・ウォーズ」のベン・バート、「地獄の黙示録」のウォルター・マーチ、「ジュラシック・パーク」のゲイリー・ライドストロームといったレジェンド級の音響エンジニアたちのインタビューを織り込み、もはやサウンド効果なしでは成り立たなくなった映画作りの現状を浮き彫りにしていく。

 ただし、演出担当のミッジ・コスティンは平易な内容を第一義的に考えていたせいか、網羅されている情報が入門編レベルに寄せており、マニアックな興趣に乏しい点は不満だ。観客を置いてけぼりにするのは禁物ではあるが、もう少し知的好奇心を喚起するような作りが望ましかった。しかしながら、こういうモチーフを取り上げたこと自体は評価されるべきだろう。
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