猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ポンヌフの恋人

2019-05-30 22:58:58 | 日記
1991年のフランス映画「ポンヌフの恋人」。

閉鎖中のポンヌフ橋で暮らす天涯孤独の青年ホームレスのアレックス(ドニ・ラヴァン)
は、いつものように酒を飲みながら夜のパリを放浪していたが、車に片足をひかれてし
まう。そこに通りかかった女性は、失恋の痛手と目の病気による失明の危機から家出放
浪中の画学生ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)。アレックスはミシェルの美しさに初
めて恋の心地を知り、ポンヌフ橋を仕切っている初老の浮浪者ハンス(クラウス=ミヒャ
エル・グリューバー)にこの家出娘のミシェルを置いてくれるよう頼み込む。そして2人
のホームレス生活が始まる。

レオス・カラックス監督の「アレックス3部作」の3作目。ポンヌフ橋で暮らすホームレ
スの青年と、失明の危機に絶望した画学生との切ない恋愛を描いている。画学生ミシェ
ルは失恋への未練と目の病気で失明するかもしれないという恐怖を抱えて、家出して放
浪していたが、ホームレスのアレックスに出会う。アレックスはミシェルに恋をし、ポ
ンヌフ橋を仕切っている初老のホームレスにミシェルを置いてくれるよう頼み込む。行
くあてもないミシェルはアレックスと共にいることにする。
ミシェルはいつも片目にガーゼを当てている。何の病気かはわからない。今まで他人と
のつながりを全く持たずに生きてきたアレックスが、ミシェルと出会って柔らかな気持
ちになり、2人の間に徐々に愛情が芽生えていく過程がいい。普通のお嬢さんだったミ
シェルがホームレスと恋愛なんて考えられないが、特殊な事情を抱えていたミシェルに
は受け入れられたのだろう。ミシェルにとってはいわば刹那的な恋なのだと思う。
やがて「目の病気は治るから、この人を捜して」というミシェルの顔写真のポスターが
貼られるようになるが、ミシェルを失いたくないアレックスはミシェルの目に触れない
よう剥がしたり燃やしたりする。その頃はもうミシェルは薄汚れてボロボロの姿になっ
ている。目の病気が治ることを知らないミシェルはずっとアレックスと一緒にいるのだ。
その姿が痛ましい。
ポンヌフ橋の上での花火のシーンや、アレックスの火吹き芸のシーンは圧巻である。私
はレオス・カラックスにはまっていた時期があって、「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚
れた血」「ポンヌフの恋人」のアレックス3部作(いずれも主役はドニ・ラヴァン)は何
度も観たし、「ホーリー・モーターズ」(これもドニ・ラヴァン主演)もおもしろかった。
特に本作は好きな映画だ。圧倒的な映像美もいい。




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TATARI タタリ

2019-05-24 21:29:52 | 日記
1999年のアメリカ映画「TATARI タタリ」。

遊園地プロデューサーのスティーブン・プライス(ジェフリー・ラッシュ)は、不仲の
妻エヴリン(ファムケ・ヤンセン)のために大がかりな誕生パーティーを開くことにし
た。過去に残虐な人体実験が行われた精神病院の跡地に建てられた館、ここで1晩過
ごせたら100万ドルを贈呈するというイベントだった。招待された参加者たちが集ま
るが、彼らは何故自分たちが招待されたのかわからなかった。やがて館内に入った彼
らの周りで不可解な現象が起こり始める。

ホラー映画なのだが、うーん、怖くもないしあまりおもしろくなかった。遊園地をい
くつも経営しているプライスは、仲が悪くなっている妻のためにパーティーを開くこ
とにした。そこは昔残酷な人体実験が行われた精神病院の跡地に建てられたというい
わくつきの館で、数人の客を招き、1晩過ごせたら100万ドルを贈呈するというイベ
ントだった。プライスは遊園地プロデューサーなので当然いろんなからくりが用意さ
れていた。
次々に不可解な現象が起こるのだけれど、それが心霊現象なのかプライスの罠なのか
がわからない。とにかく人が死んでいく。まず幽霊があまり現れないし、現れ方も怖
くないのだ。そして肝心のストーリーもあまりおもしろくない。それなりにグロテス
クな描写もあるが、何と言うかちゃちっぽい。精神病院で人体実験が行われている様
子や、それに続く事件のシーンはいいのだが、それを生かしきれていない。確かに呪
いはあるのだが。
B級ホラーだなと思った。こんな映画の主役に名優のジェフリー・ラッシュを使わな
くてもいいのに。もったいない。エンドロールの後のシーンはまあいいが、期待外れ
だった。




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希望の灯り

2019-05-20 21:30:47 | 日記
2018年のドイツ映画「希望の灯り」を観にいった。

腕や首の後ろにタトゥーを入れた無口な青年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)は、
巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始める。旧東ドイツ、ライプツィヒ近
郊。飲料担当のブルーノ(ペーター・クルト)は、クリスティアンに仕事のいろはやフォ
ークリフトの操縦の仕方を教え、クリスティアンにとって父親のような存在になる。通
路で、クリスティアンはお菓子担当の年上のマリオン(ザンドラ・ヒュラー)と出会い、
彼女の謎めいた魅力に一瞬で惹かれる。コーヒーマシーンのある休憩所が彼らのおきま
りの場所となり、2人は親密になっていく。間もなくしてクリスティアンはスーパーマ
ーケットの家族として受け入れられる。フォークリフトの試験にも見事合格する。クリ
スティアンはその間ずっとマリオンに恋をしていて、スーパーマーケットの同僚たちも
それを知って興奮気味に見守っている。しかし、2人はお互いの関係には慎重にならざ
るを得なかった。というのも、実はマリオンは既婚者だからだ。

旧東ドイツのスーパーマーケットを舞台にした人間ドラマ。主人公のクリスティアンは
寡黙で、あまりセリフがない。そのため時々心の中のセリフが聞こえると聞き入ってし
まう。仕事を教えてくれるブルーノはいい人で、そんなクリスティアンを温かい目で見
守る。統一前ブルーノはトラックの運転手をしていて、今はフォークリフトの操縦だ。
東ドイツ時代が懐かしいと言う。旧東ドイツの人々の悲哀を感じる、そんな映画だ。
クリスティアンが好きになったマリオンは、ある日から仕事を休み始める。夫がどうし
ようもない男で、彼女に暴力を振るうとブルーノから聞かされ、クリスティアンはマリ
オンを心配する。花を持ってマリオンの家に行き、夫が出ていった後こっそり家の中に
入るが、マリオンには直接渡せず花を置いてくる。
この映画には切ないシーンや美しいシーンがいっぱいだ。マリオンの誕生日を知ったク
リスティアンが、手の平にちょこんと乗る程の小さなケーキ(恐らく店の商品だろう)に
1本のろうそくを立て、休憩所で渡すシーンは童話のようにかわいい。同僚たちも東ド
イツ時代を懐かしみながらも、時代の波に流されて毎日を生きている。幸せな人、孤独
な人、いろんな人がいるのだろうが皆日常を過ごしているのだ。ある日スーパーマーケ
ットでは従業員たちがショックを受ける悲しい出来事が起きてしまう。それでも皆生き
ていかなければならないのだ。
スーパーマーケットのシーンでは客の姿があまり出てこない。これは従業員、労働者た
ちにスポットを当てているからだと思う。彼らの悲哀や尊厳に。人によっては退屈する
かもしれない映画だが、私はおもしろかった。ドイツ映画はあまり観たことがないけれ
ど、「コーヒーをめぐる冒険」も地味だけれどいい映画だった。
アキ・カウリスマキの映画みたいで、良かった。私の好みの作品である。




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アニエスの浜辺

2019-05-16 20:27:13 | 日記
2008年のフランス映画「アニエスの浜辺」。

ベルギー出身のフランスの映画監督アニエス・ヴァルダが、自分の人生を描いた
ドキュメンタリー映画。もともと写真家であったアニエス・ヴァルダはやがて映
画監督になった。夫で映画監督のジャック・ドゥミとは共に「ヌーヴェルヴァー
グの左岸派」と呼ばれた。夫婦と親交のあった俳優や映画監督たちのインタビュ
ーを交えながら、ヴァルダの、そしてドゥミの人生が描かれる。
ヴァルダの原風景は浜辺である。ベルギーに住んでいた子供の頃、家族でよく海
に遊びにいったようだ。いろんなシーンの合間合間に浜辺の風景が映し出され、
美しい。彼女の人生の全ては浜辺から始まっているのである。
ヴァルダとドゥミの息子マチューは俳優になったが、マチューは子供の頃とても
かわいい。映像から、ヴァルダとドゥミが深い愛情で結ばれていたのだというこ
とがよくわかる。映画監督同士ならではの意志の疎通、結束があったのだろう。
昔ヴァルダが監督を務めた「ジャック・ドゥミの少年期」という映画を観たが、
とてもおもしろかった。ドゥミは子供の頃から映画が好きで、カメラやビデオカ
メラが好きだった。映画監督になるべくしてなった人なのだろう。
ヴァルダの映画で観たいものもあるのだが、DVD化されていないのが残念である。
ジャック・ドゥミは1990年に、アニエス・ヴァルダは今年の3月に亡くなった。



ノエルは足が短い。目が青いので外国の猫が混じっていると思うのだが、もしか
してマンチカンかな。
















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the EYE【アイ】

2019-05-11 23:22:31 | 日記
2002年の香港・シンガポール合作映画「the EYE【アイ】」。

2歳の頃に失明した女性マン(アンジェリカ・リー)は、20歳の時に角膜移植手術を
受け、視力を回復する。しかし、それ以来彼女は死者の姿が見えるようになってし
まう。心理療法士のワ・ロー(ローレンス・チョウ)はそれを信じようとしなかった
が、マンは手術中のインイン(ソー・ヤッライ)の死を直感したりと、重い試練にう
なされる日々。その現実を受け入れようとした時、マンは、鏡に映る自分の顔が、
他人が見ている本来の自分の顔ではないことに気づく。

オキサイド・パンと双子の弟ダニー・パンの共同監督によるオカルト・ホラー映画。
これはすごく怖かった。まず「手術をしたら目が見えるようになったが、見えては
いけないものまで見えるようになった」というシチュエーションが怖い。子供の頃
に失明したマンは、角膜移植手術を受けて視力を取り戻すが、同時にこの世ならぬ
ものまで見えるようになってしまう。心理療法士のワ・ローは初めは信じていなか
ったが、彼女と過ごすうちに信じるようになる。そしてその原因は角膜の提供者に
あるのではと思い、調べ始める。
臓器移植をしたら、元の持ち主の人格の一部などが移ってしまうのではないだろう
か、と思わせられる。角膜を移植したら提供者が生前見ていたものが、心臓を移植
したら提供者の心が反映されるようになるのではないか、と思ってしまう。科学的
にはどうなのかわからないが。マンの移植された角膜の持ち主はタイの女性で、彼
女は霊が見えたり予知能力があったりしたことがわかる。
霊の現れ方がとてもリアルな感じで、怖かった。マンがエレベーターに乗っている
時後ろにいるシーンなど、本当にゾッとした。ジャパニーズ・ホラーに似ているが、
また違う恐ろしさ。そして怖いだけではなく悲しいエピソードや感動的なエピソー
ドもあり、とてもおもしろかった。霊が見えたり予知能力があったりするのって、
不幸なことなんだなあ、色々と。タイの女性はそれで村人たちから嫌われ、悩んで
いた。私は見えなくて良かった。これは佳作だと思う。大好きな香港映画の1つで
ある。


良かったらこちらもどうぞ。オキサイド・パン監督作品です。
タイムリセット 運命からの逃走
レイン
(「レイン」は兄弟共同監督です)




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