猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

さらば、わが愛/覇王別姫

2014-11-27 02:41:09 | 日記
1993年の中国・香港合作映画「さらば、わが愛/覇王別姫」。
1930年代の中国・北京。娼婦の子供である小豆子(シャオ・ドウヅ)は、半ば捨てられるように京劇
俳優養成所に預けられる。娼婦の子といじめられる小豆子をいつも助けてくれたのは、先輩の石頭
(シートウ)だった。やがて小豆子は、石頭に同性愛的な思慕を抱くようになる。
成長した小豆子と石頭は、それぞれ程蝶衣(チェン・ディエイー/レスリー・チャン)、段小楼(ドァン・
シャオロウ/チャン・フォンイー)という芸名を名乗り、『覇王別姫』で共演しトップスターになる。蝶衣は
少年時代と変わらず小楼を想っていたが、日中戦争が激化し始めた頃、小楼は娼婦の菊仙(ジューシェン
/コン・リー)と結婚する。深く傷ついた蝶衣は、同性愛者である京劇界の重鎮・袁四爺(イエン・スーイエ)
の庇護を求め、小楼との共演を拒絶する。

京劇を舞台に、蝶衣、小楼、菊仙の愛と憎しみを描いた人間ドラマである。とても見応えがあった。
私は京劇というものをあまり知らなかったが、その衣装や宝飾の美しさに圧倒された。所作も美しい。
ただ、俳優養成所にいる子供たちが、やたらバシバシ叩かれているのは見ていて不快だった。本当に
あんなに厳しくされているのだろうか。今はそんなことないと思いたいが。
トップ俳優になった蝶衣と小楼だが、皮肉にも小楼が結婚してしまうところから3人の不幸が始まる。
小楼を愛していた蝶衣の人生は変わっていく。
それだけでなく、日中戦争や文化大革命などを経て、京劇と京劇俳優の運命も変わっていくのである。
失意のうちに阿片中毒になっていく蝶衣、それを治そうとする小楼の友情は痛々しい。激動の時代に、
3人の人生も振り回されていく。とにかくレスリー・チャンの繊細な演技が素晴らしい。チャン・フォンイー
やコン・リーの表情演技もいい。(チャン・フォンイーってどこかで見た顔だと思っていたら、「レッドクリフ」
の曹操役の人だった)50年に渡る3人の愛、友情、悲しみ、憎しみがとても細かに描かれていて、おもし
ろかった。
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した作品である。近代中国史として観ても興味深い。



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最後の命

2014-11-22 04:14:41 | 日記
日本映画「最後の命」を観にいった。
小学生の時に婦女暴行事件に遭遇した明瀬桂人(柳楽優弥)と冴木裕一(矢野聖人)。トラウマを
抱えたまま成長した桂人は、大人になった現在も人と肌を重ねることに嫌悪感を抱き、最低限の
人間関係だけで日々を過ごしていた。そんなある日、桂人の元に冴木から連絡が入り、2人は
数年ぶりに再会することになった。ところがその晩、桂人の部屋で顔見知りの女性が殺害された
死体となって発見された。警察の取り調べを受けることになった桂人は、冴木が指名手配中の
連続婦女暴行事件の容疑者であることを刑事から知らされる。

重たい映画だった。子供の時に強姦を目撃した2人の青年は、どちらも「性」に対してトラウマを
抱えることになるが、2人は全然別の方向へ向かってしまう。桂人は人と肌を重ねることに嫌悪感を
抱くことに悩み、冴木は女性をレイプしたいという願望に悩まされる。この違いはどうして生まれた
のだろうか。本人たちの持って生まれた資質なのだろうか。
おもしろかったが、時系列が少しわかりにくい部分があった。それと、香里という女性が桂人たちの
同級生として登場し、香里は高校の時に冴木と、大学に入ってからは桂人と付き合うのだが、香里に
この2人が付き合うだけの魅力というか説得力を感じなかった。
それでも、悲しいラストに少しだけ希望を感じて、救われる、そのシーンは良かった。
なんといっても柳楽優弥の繊細な演技が良かった。



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郊遊〈ピクニック〉

2014-11-18 04:35:34 | 日記
台湾・フランス合作映画「郊遊〈ピクニック〉」を観にいった。
シャオカン(リー・カンション)は、路上で不動産広告の立て看板を掲げる、人間立て看板の仕事を
して、わずかな収入を得ている。幼い息子と娘は、昼間、スーパーマーケットに行って、試食の品を
もらって食べている。夜は3人で路上で弁当を食べ、水道も電気もない空き家へ帰り、マットレスの
上で寝る。歯磨きも、水浴びも、公衆トイレを使う。ある日、スーパーで働く中年女性が、学校も
行かずに毎日スーパーをうろついている娘のことを、気にかけ始める。

不思議で、だけど圧倒的な存在感のある映画だった。物語は静かに、ゆっくりと進行していく。
子供たちが砂浜で遊ぶ様子、父親が人間立て看板をしている様子、3人で弁当を食べる様子、父親が
1人で弁当を食べる様子、スーパーの店員の女性が廃墟の壁に描かれた絵をじっと見る様子…
ほとんどのシーンが長回しのカメラワークで撮られていて、こちらもじっと見入ってしまう。
この映画が監督引退作品だという、ツァイ・ミンリャンという人の、他の映画は観たことがないのだが、
大体こんな長回しを多用する人なのだろうか。長回しのせいで、映画がとてもリアルに感じられる。
シャオカンがタバコを吸うシーンではタバコの匂いを感じたし、キャベツをむさぼり食べるシーンでは
キャベツの匂いと味を感じた。
冒頭で、寝ている子供たちの側で髪を梳き、やがて去っていく女が登場するのだが、あれは子供たちの
母親なのだろうか。貧しさに耐えかねて、夫と子供を置いて出ていったのだろうか。想像するけれど、
答えは用意されていない。
台湾にはあの親子のような人たちが本当にいるのだろうか。部屋を借りるだけの収入がなく、空き家に
家財道具を持ち込んで、そこでなんとか暮らしている。家らしきものがあるだけ、ホームレスよりは
マシかもしれないが。社会に置き去りにされた家族。子供たちの笑顔しか救われるものはない。
この映画には、廃墟とその壁に描かれた河原の絵が度々登場する。とても孤独を感じる場所、絵だ。
廃墟は、登場人物たちの孤独や空虚感を表現しているのだと思った。ラストで女が絵を見つめている
シーンは、とても長い。その女の後ろに立って、どうしたら良いのかわからない様子のシャオカン。
1シーン1シーンが、まるで絵画のようだ。胸に深く刻み込まれる映画である。



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ゴッド・ブレス・アメリカ

2014-11-14 04:22:47 | 日記
2012年のアメリカ映画「ゴッド・ブレス・アメリカ」。
社会に不満を抱いているバツイチ中年男のフランク(ジョエル・マーレイ)を、立て続けに不運が
襲った。娘から面会を拒否され、セクハラと誤解されて会社を解雇され、医師からは脳腫瘍で余命
わずかとの宣告を受けてしまう。自暴自棄になり拳銃自殺をしようとしていたフランクだったが、
テレビのリアリティ番組でわがままなセレブ女子高生・クロエを目にして、考えが変わる。フランク
は隣家のスポーツカーを盗んでクロエのもとに行き、射殺した。その様子を、同じく人生にうんざり
していた女子高生・ロキシー(タラ・リン・バー)が目撃し、興奮した状態でフランクに新たな殺人を
持ちかけた。

痛快なブラック・ユーモア・バイオレンス映画である。殺人はいけないことだが、社会に巣食うバカ
どもをフランクとロキシーが殺していく様子は、単純におもしろい。この、さえない中年男と女子高生
のコンビで殺人の旅をしていくところがいい。
冒頭でフランクを悩ませていたのは、隣家の赤ん坊。しょっちゅう大声をあげて泣き、太ってて醜い。
フランクはこの赤ん坊を殺す妄想をするのだが、ほんとに殺せばいいのに、と思った。
クロエみたいなわがままセレブ女子高生というのがアメリカ映画にはよく登場するが、ああいう子は
ほんとに多いのだろうか。金持ちで美人だから人が寄ってきているだけで、本当の友情や愛情を
わかっていない。映画の中だけのキャラクターならいいのだが。
映画を観ていて、私がフランクに1番殺して欲しかったのは、フランクの娘だ。フランクは娘を溺愛
しているから殺すわけがないが、とんでもないわがまま娘である。どうしてあんな風に育ったのか。
結婚していた時、フランクが相当甘やかしたんじゃないだろうか。あれではクロエ以上に手のつけ
られない娘になるだろう。元妻の再婚相手が気の毒だ。
バイオレンスだが、ほろ苦い映画だった。



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ムード・インディゴ うたかたの日々

2014-11-10 02:31:23 | 日記
2013年のフランス映画「ムード・インディゴ うたかたの日々」。
働かなくても生活していける程の財産を持つコランは、毎日自由に暮らしていた。クロエという
素敵な女性と出会ったコランは、クロエと結婚する。盛大な結婚式を挙げたが、やがてクロエが
肺の中に睡蓮の花が咲くという病気に冒されてしまう。高額な治療費のためお金はどんどん減って
いき、働いたことのないコランは仕事を見つけなければならなくなる。

ファンタジーであり、ロマンチック・ラブ・コメディでもある。私はあら筋を読んで、もっと暗い映画
かと思っていたので、ちょっと期待外れだった。ただ、斬新な映像はとても美しかった。そういえば
ミシェル・ゴンドリー監督は、「恋愛睡眠のすすめ」もこんな感じだったなあ。
前半はかなりコミカルなファンタジーだが、後半は同じファンタジーでもモノクロで暗い雰囲気に
なっていく。後半の方が断然私の好みだ。そして、ラストも悲惨。
この物語、原作があるというが、原作は一体どんな文章で書かれているのだろう。映画みたいに
コミカルでファンタジックな文章なのだろうか。それが気になった。
不思議な余韻の残る映画である。



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