猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

草の響き

2021-10-30 22:30:46 | 日記
2021年の日本映画「草の響き」を観に行った。

工藤和雄(東出昌大)は、昔からの友人で今は高校の英語教師をしている佐久間
研二(大東駿介)に連れられ、病院の精神科にやってくる。和雄は東京で出版社
に勤めていたが、精神のバランスを崩し、妻の純子(奈緒)と共に故郷の函館に
帰ってきたばかりだった。医師の宇野(室井滋)から自律神経失調症と診断され、
運動療法として毎日ランニングをするように言われる。街を走り始めた和雄は、
雨の日も真夏の日もひたすら同じ道を走り続ける。その繰り返しの中で、和雄
は徐々に心の平穏を取り戻していく。やがて彼は、路上で知り合った高校生た
ちと不思議な交流を持つようになる。

佐藤泰志氏の小説を斎藤久志監督により映画化した人間ドラマ。精神に変調を
来した和雄は休職し、妻の純子と共に故郷の函館に帰ってきた。和雄は友人の
研二に一緒に病院に行って欲しいと頼み、精神科を訪れる。和雄はそこで医師
に自律神経失調症だと診断され、治療のために走ることを勧められる。和雄は
投薬と共に毎日函館の街を走り続け、次第に心に落ち着きを取り戻していく。
自律神経失調症で運動療法としてランニングを勧めるって本当にあるのだろう
か。私は運動が大嫌いなので、私だったらいくら医師に言われても絶対走りた
くないのだが。
最初の方で高校生が上手にスケボーをしているシーンがあり、私は初めそれを
和雄の高校時代の回想かと思ったのだが、現在進行形の話だった。その少年が
少し東出昌大に似ていたのもありそう思ったのだが、これはあえて似た俳優を
起用したのだと思った。彼が和雄の投影図になっていくのは観ていくうちにわ
かっていく。和雄が走っている時、広場で花火をしていた高校生たちが一緒に
走り出す。この日を境に3人は時々一緒に走るようになる。高校生たちもまた
悩みを抱えていた。
和雄の妻の純子は孤独だった。東京出身の彼女には夫とその両親以外頼れる人
はいない。研二はよく和雄の様子を見に来てくれるが、やはり研二は和雄の友
達である。和雄が病院に行くのを自分ではなく研二に頼んだことも、純子にと
っては複雑だっただろう。純子は献身的に和雄を支えるが、純子の心の支えは
飼い犬だけである。支えられる和雄と支える純子。東出昌大と奈緒の演技がと
てもいい。やがて純子の妊娠が明らかになるが、どうして夫が自律神経失調症
という不安定な状況で子供を作るのかなあ、と思う。和雄は本心では嬉しいの
だが、困惑してしまい、それが純子を傷つける。夫婦の心は次第にすれ違って
いく。
ある日スケボーのうまい高校生が海で死んでしまい、それをもう1人の高校生
から泣きながら聞かされた和雄は愕然とする。その謎の死は和雄にとって大き
なショックであり、和雄は薬を大量に飲んで救急搬送されてしまう。病院のベ
ッドに拘束された状態で目を覚ました和雄に、宇野医師は「工藤さん、大変な
ことをしてしまいましたね」と厳しく言う。昏睡状態の和雄を見つけたのはも
ちろん純子だが、純子がこの時自分の無力さを痛感したのは想像に難くない。
動くことを許可された和雄が純子の携帯電話の留守電にメッセージを入れるシ
ーンは本当に切ない。ラストで走り出した和雄の晴れやかな顔にストップモー
ションがかかり、それがとてもいい。ハッピーエンドにはならなかったが、希
望を感じさせるラストである。




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プロジェクトV

2021-10-26 21:51:22 | 日記
2020年の中国・香港合作映画「プロジェクトV」。

トン・フアンティン(ジャッキー・チェン)によって設立された"ヴァンガード"は、
世界中のクライアントにセキュリティサービスを提供する民間の国際特殊護衛部
隊。そのクライアントである実業家チョン・クォックラップ(ジャクソン・ルー)
が、ロンドンのチャイナタウンで誘拐されてしまう。救出のために派遣されたヴ
ァンガードのロイ・ジャンユー(ヤン・ヤン)らは、ビジネスパートナーのマシム
が中東過激派の首領であることに気づいたチョンが、そのことをロンドン警察に
伝えたことが事件の背景にあると知る。

ジャッキー・チェンの主演映画最新作。トン・フアンティンは民間の国際特殊護
衛部隊ヴァンガード(本部・ロンドン)の創設者であり、最高司令官を務めている。
ロンドンの中華街で開催された旧正月の祝賀イベントで、ヴァンガードの顧客で
ある中国人実業家チョン・クォックラップ夫妻が誘拐された。チョンのビジネス
パートナーであるマシムは、中東のテロリスト集団のリーダーであった。このこ
とに気づいたチョンは警察に通報し、マシムはアメリカ軍によって殺害された。
父の殺害に激怒したマシムの息子・オマル(エヤド・ホーラーニ)は、傭兵部隊に
チョンの誘拐を命じたのであった。
ジャッキー・チェンが主演ということになっているが、ジャッキーの活躍は少な
く、何だか脇役みたいで、ちょっと期待外れだった。それでもまだまだこういう
映画を作ってくれることは嬉しい(監督は何度もジャッキーとタッグを組んでき
たスタンリー・トン)。舞台もロンドン、アフリカ、ドバイと国際的で派手。最
高司令官のトン役のジャッキーはメンバーに指令を出すのがメインで、いや自ら
も顧客の救出には向かうのだが、とにかくアクションシーンが少ない。ヴァンガ
ードのメンバー、ロイ役のヤン・ヤン(すらりとしたイケメン)のアクションが見
どころといった感じ。近年のジャッキー映画を観ていると、ジャッキーももうお
年だし、一歩引いて若手に見せ場を譲っているような感じがする。それはそれで
いいとは思うが。
物語はまあおもしろいのだが、とっ散らかってまとまりがない感じ。あまりに舞
台を移動させすぎなのだろうか。でも今までにもそういうジャッキー映画はあっ
たし、もっとおもしろかったと思うのだが。やっぱりジャッキーのアクションの
少なさのせいか。アクションもカンフーではなくカーチェイスとか爆発シーンと
かがメインで、今ひとつ。それにCGが雑というかちゃちすぎ。今時もっと迫力
あるCGが作れると思うのだが、予算不足だったのだろうか。ライオンのシーン
なんか丸わかりだし。悪いところばかり書いているが、ヤン・ヤンのアクション
は観る価値はあるし、ジャッキーのコミカルさも健在。なんだかんだ言ってもジ
ャッキーを観たい人にはいいかもしれない。




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スマイルコレクター

2021-10-22 21:57:07 | 日記
2007年のフランス映画「スマイルコレクター」。

ドライブ中に男性をはねてしまった失業者2人組は、男性が持っていたバッグ
から200万ユーロもの大金を発見する。その金は、数日前に誘拐された少女の
ための身代金だった。2人はその金を隠し、男性の遺体を遺棄する。事件の翌
朝、少女は現場近くの廃屋で死体となって発見される。少女の遺体には80年
代に流行したアナベル人形と同じドレスが着せられ、その口元には謎の微笑が
浮かんでいた。プロファイリングを得意とするリューシー巡査長(メラニー・
ロラン)は新米だが、人手不足のため事件の捜査に駆り出される。リューシー
は独学で習得した知識を駆使し、ひき逃げ事件と誘拐殺人事件の犯人像を割り
出していくが、新たに少女が誘拐される。

フランス版「羊たちの沈黙」とも言えるサイコ・サスペンス。実力派美人女優
メラニー・ロランが主演を務めている。この映画かなりおもしろかったのだが、
邦題で損をしていると思う。「スマイルコレクター」なんてB級映画みたいな
タイトルのせいで見過ごされがちなのではと思う。リストラされて憂さ晴らし
にドライブしていた男性2人は、夜道で男性をはねて死なせてしまう。被害者
は大金を持っており、彼らは警察に連絡するか迷った挙句、その200万ユーロ
をくすねてしまう。翌朝誘拐されていた少女が遺体となって発見される。被害
者の男性は少女の父親で、身代金を運ぶ途中だったのだ。
リューシー巡査長はプロファイリングの専門家ではないが、独学で習得し得意
としていた。フランス版「羊たちの沈黙」というよりオマージュと言った方が
いいかもしれない。リューシーは猟奇殺人事件マニアで、その関係の本をたく
さん持っており、家を訪れた同僚は驚く。トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」
を持っているのもいい。リューシーが何故そんなに猟奇殺人に興味を持ってい
るのかは次第にわかってくる。ハリウッド映画のような迫力や緊迫感はなく、
淡々と進んでいくが、見応えがある。ただフランス映画らしく説明不足なとこ
ろはあると思う。リューシーが少女誘拐事件の本当の目的は身代金ではないと
何故わかったのか、私にはよくわからなかった。他にも想像力で補うしかない
ようなシーンは多い。
リューシーは着実に犯人へと近づいていくが、その過程で自身の過去のトラウ
マと向き合わなければならなくなる。そして誘拐犯にもトラウマがあった。ひ
き逃げ事件と誘拐事件が複雑に絡み合い、主人公刑事と誘拐犯それぞれの子供
の時のトラウマもポイントになっており、とてもおもしろい。何が犯人を犯行
に駆り立てるのか。「羊たちの沈黙」でジョディ・フォスターが演じたクラリ
スにも子供の時のトラウマがあった。幼い頃の体験というのは大人になっても
こうも人生に影を落とすのか、と思うと悲しい。犯人は割と早くにわかるが、
新たに誘拐された少女をいかにして救うのか、リューシーはクラリスばりの活
躍を見せる。動物虐待のシーンは作り物とわかっていてもきつい。でもフラン
ス映画にしてはラストはすっきりと終わって救いがあった。




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よい子の殺人犯

2021-10-17 22:32:41 | 日記
2019年の台湾映画「よい子の殺人犯」を観に行った。

母親と認知症の祖父と暮らすアーナン(ホアン・ハー)は、日本のアニメが大好き
なオタクだが、人と争うことが嫌いな優しい青年。ある時、彼の家に死んだ父親
の弟が恋人を連れて突然転がり込んできて、平穏だった家は緊張感に包まれる。
一方、そんな中でアーナンはオタク仲間の女の子に恋をする。彼女と仲良くなっ
ていくが、彼女との甘い夢が実現しようとした矢先、思いもよらないことが起き
る。

「台湾映画祭2021」にて鑑賞。台湾の貧困や家族関係、日本文化の浸透などに
ついて描かれていて、おもしろかった。オタク青年のアーナンは仕事が続かない
のでいつも母親に愚痴をこぼされている。いい人で祖父にも優しいのだが、母親
にだけ働かせて自分はニートというのは良くないと思う。そんなアーナンだが、
オフ会で知り合った女の子を好きになり、次第に仲良くなっていく。生活に張り
合いが出てきたアーナン。だがそんな時、死んだ父親の弟が突然家に転がり込ん
できて、居座ってしまう。母親は「ここは私たちの家よ。出ていって」と言うが、
叔父は「俺の家だ」と言って家の中で傍若無人に振る舞う。叔父はギャンブルで
借金を作って家賃が払えなくなったのでアーナンの家に来たのだが、母親はそれ
を見抜いていた。
アーナンの家庭は複雑である。アーナンが小学校3年生の時、父親は長男と共に
自殺し、それから母親と父方の祖父と暮らしてきた。父親は生活苦のために自殺
したようだが、どうして長男だけを道連れにしたのかよくわからない。アーナン
は兄が死んで以来、精神的な成長が止まってしまったように見える。日本アニメ
に夢中になったのも兄の影響で、それだけ兄の存在は大きかったのだろう。叔父
はアーナンの趣味が子供っぽいとバカにし、暴力を振るい、家を好き勝手に使う。
母親の「お父さんが生きていたらこんなことはさせなかったのに」という言葉が
悲しい。
アーナンはオタクらしく気持ち悪さが強調されている。好きな女の子にもらった
コアラのマーチの1粒をティッシュに大切に包んで、帰りの電車の中でニヤニヤ
しながら食べるシーンなんか本当に気持ち悪い。でもアーナン役のホアン・ハー
は髪型や行動や仕草で気持ち悪さを表現しているが、よく見ると普通にイケメン
である。それにしてもアーナンが好きになった女の子は強引でワガママだなあと
思った。私だったら付き合いたくない。アーナンのしたミスを「裏切り」と言っ
て怒るなんて、自己中心的すぎる。アーナンがかわいそうだった。
終盤物語は大きく動き、アーナンと彼女の関係もだが意外な展開になる。ラスト
はどうなったのかはっきりと描かれていない。私が想像している通りだとしたら
少しは救いがあるのかもしれないが。いや、その方が救いがないのだろうか。悲
しくてやりきれない物語だった。台湾映画は本当におもしろい。台湾映画祭は嬉
しいのだが、香港映画祭も開催して欲しいなあ。




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護られなかった者たちへ

2021-10-12 22:53:17 | 日記
2021年の日本映画「護られなかった者たちへ」を観に行った。

東日本大震災から10年を経た仙台で、全身を縛られたまま放置され餓死させ
られるという残忍な連続殺人事件が起きた。被害者の2人は誰もが慕う人格者
で、怨恨の可能性は低いと見えた。捜査は難航するが、担当刑事の笘篠誠一郎
(阿部寛)は被害者2人がかつて同じ福祉保健事務所で同時期に勤務していたと
いう共通項を見出し、やがて1人の男に行き当たる。その容疑者は、別の事件
で服役し、出所したばかりの利根泰久(佐藤健)という男。笘篠は利根を追い詰
めていくが、決定的な証拠が掴めないまま、第3の事件が起きようとしていた。

中山七里氏の小説を瀬々敬久監督により映画化した社会派ミステリー。とても
おもしろかった。廃アパートなどで全身を縛られ放置され、餓死させられると
いう奇妙で残酷な殺人事件が続けて起こる。被害者たちは同じ福祉保健事務所
に勤めていたが、どちらも人格者、善人として知られる人物で、怨恨が理由と
は考えにくかった。しかし刑事の笘篠たちは事務所で彼らの仕事内容を聞くう
ち、生活保護の実態とその闇を目の当たりにする。そして利根泰久という男が
捜査線上に浮かび上がる。利根は過去に福祉保健事務所に放火して逮捕され、
服役を終えて出所したばかりだった。
被害者たちが同じ福祉保健事務所に同時期に勤務したことがあるという共通点
から、この事件は生活保護を巡るトラブルが原因ではないかと推測され、警察
は過去に被害者たちと揉めたことのある人々を調べることになる。警察の捜査
ってすごいなと思う。生活保護の申請のトラブルなんて一体どれだけあるのだ
ろう。それを1人1人しらみつぶしに調べていくのだから、想像しただけでも
めまいがしそうな作業だ。東日本大震災の後、仕事や家や家族を失った人たち
が生活保護の申請に押し寄せた。申請が通った人、通らなかった人、諸事情で
申請を取りやめた人、色々いるだろう(震災関係なく生活保護はそういうもの
であるが)。中には事務所の職員を恨む人もいると思う。怨恨ではないと思わ
れた連続殺人事件が怨恨によるものとの見方が濃厚になってきたのだ。
容疑者となった利根やその周囲の者に笘篠は何度も事情を聞きに行くが、次第
に人格者だと言われていた被害者たちの別の顔が見えてくるのだった。とは言
え彼らは善人ではないかもしれないが悪人でもない。決めつけることはできな
いのだ。彼らなりに罪悪感を抱えて生きている。人の世を生きる難しさという
のだろうか、割り切れないものがたくさんあるのだ。その現実に悲しくなる。
利根もある事情から被害者たちを恨んでいた。だから事務所に放火したのだっ
た。利根は生後すぐに捨てられ、ずっと養護施設で育った孤独な青年である。
友達はいたかもしれないが家族などいない。その利根がやっと家族と呼べる存
在を、自分の居場所を見つけられたと思ったら、不幸な出来事に遭遇してしま
う。
利根役の佐藤健の演技が素晴らしい。映画が始まって間もなくこの人の顔のア
ップのシーンがあるのだが、目力がすごい。この人と柳楽優弥は目力がすごい
なあと思う。ナイフのように切れそうな鋭さなのだ。孤独で世をすねたような
利根を全身で体現しており、アカデミー賞ものの熱演だった。笘篠刑事役の阿
部寛もいい。彼は震災で妻子を亡くしており、あまり表情はないのだがやはり
孤独さの表現が秀逸だと思った。重たくて悲しい物語だが、ラストに少しだけ
救いがあるのが良かった。笘篠が利根に向けた言葉に胸を打たれる。


猫って何故かパソコンの前で寝るよね。


カジカジ。











ベルのしっぽで遊ぶノエル。ちょいちょい。

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