猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ピアニスト

2021-03-30 22:19:20 | 日記
2001年のフランス・オーストリア・ドイツ合作映画「ピアニスト」。

ウィーンの名門音楽院でピアノ教師として働くエリカ(イザベル・ユペール)は、
ずっと厳格で過干渉な母親(アニー・ジラルド)の監視下で生きてきた。男性と
の交際経験もなく、その欲求不満を晴らすかのように倒錯した性的趣味を密か
に持つようになった。そんなエリカの前に若い大学院生のワルター(ブノワ・
マジメル)が現れ、求愛してくる。エリカは警戒して彼を拒絶するが、彼は諦
めず、エリカが勤める音楽院の編入試験を受けてまで入学してくる。やがてワ
ルターの熱烈なアプローチを受け入れるようになるエリカだったが、自らの倒
錯した性的趣味をワルターで満たそうとし、ワルターは困惑する。

ミヒャエル・ハネケ監督による人間ドラマ。カンヌ国際映画祭で審査員グラン
プリを受賞している。名門音楽院でピアノ教師をしているエリカは、過干渉な
母親と2人暮らしで、もう40歳を超えていると思われるが男性経験もない。不
満を抱えながらも母親と離れることができない、共依存の関係である。仕事を
終えたら真っすぐに帰宅する単調な生活だ。エリカはあるパーティーでピアノ
を演奏するが、その演奏に惚れ込んだ大学院生のワルターから激しい求愛を受
ける。初めは若い男性に警戒して拒絶するエリカだったが、ワルターはエリカ
が勤める音楽院に編入してくる。彼は音大生ではないがピアノがとても上手だ
った。エリカはやがてワルターの愛を受け入れるようになるが、エリカに性倒
錯の趣味があることを知ったワルターは幻滅する。
エリカの行動は色々と気持ちが悪い。1人で個室ビデオ店に行ったり(当然他
の男性客たちからは変な目で見られる)、人の行為を覗き見したり。ちょっと
ここには書きにくいような異常なことをしている。母親に長年抑圧されてきた
反動なのだろう。そしてエリカは常に無表情だ。感情を押し殺した能面のよう
な顔のイザベル・ユペールが怖い。エリカの性的趣味を知ったワルターは幻滅
し1度は離れていくが、またエリカのところに戻ってくる。ワルターはエリカ
を受け入れ、2人の秘密の関係が始まる。
イザベル・ユペールの演技に圧倒される。深夜にワルターがエリカの家に押し
かけてきて、母親を部屋に閉じ込めて性行為をするシーンはすごい迫力だ。母
親は泣き叫ぶし、ワルターのしたことは強姦に近いのだが、それでもワルター
が一方的に悪い奴という訳ではない。ワルターはエリカの希望を叶えてやった
だけなのだ。そしてなおも無表情なエリカは本当に怖い。何がここまでエリカ
の感情を抑えさせるのだろう。教え子に対する陰湿な行為など、感情的になる
面もあるのだが、エリカはバランス感覚がおかしいと思う。
ラストは衝撃的だが、私が予想していたのとは違っていた。どうしてエリカが
ああいう行動をとったのかよくわからなかった。逆の行動をとるのではないか
と思ったのだが。エリカが思ったことは何だったのか。絶望だったのだろうか。


良かったらこちらもどうぞ。ミヒャエル・ハネケ監督作品です。
ファニーゲーム
白いリボン



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ルクス・エテルナ 永遠の光

2021-03-27 22:11:52 | 日記
2019年のフランス映画「ルクス・エテルナ 永遠の光」を観に行った。

魔女狩りを題材にした映画の撮影現場。主演女優(シャルロット・ゲンズブール)、
監督(ベアトリス・ダル)、プロデューサー、撮影監督、それぞれの思惑や執着が
入り乱れ、やがて現場は収拾のつかないカオスな状態に陥っていく。

ギャスパー・ノエ監督によるドキュメンタリー風の異色作。ベアトリス・ダルが
監督を務める魔女狩りをテーマにした映画が作られようとしている。最初の方は
ベアトリス・ダルと女優役のシャルロット・ゲンズブールが椅子に掛けて話して
いる様子が延々と続くのだが、この会話がおもしろい。本当にドキュメンタリー
みたい。ここからどう発展していくのだろうと思っていたが、事態はとんでもな
い方向へ転がっていく。
とにかくスタッフの息が合っていない。それぞれが好きなことをやり、好きなこ
とをしゃべり、マイペースなのでまとまらない。シャルロット・ゲンズブールは
メイク室に呼ばれるが、出入りの際にファンだという映画ジャーナリストや「自
分の映画に是非出て欲しい」と依頼するアメリカからわざわざ来た新人監督など
に呼び止められ、スムーズに進行しない。シャルロットは丁寧に対応するが、ス
タッフはイラついてくる。そして映画ジャーナリストやアメリカ人監督たちはめ
げずに何度もシャルロットに接触してくる。
シャルロットはシャルロットで、家でシッターに預けている娘のことが気になっ
て電話をするが、娘が学校で起きた問題を話したため気が気でなくなる。エキス
トラ女優たちも揉め出し、現場は異様なざわつきを見せる。そのうち照明が故障
し、激しい点滅状態になる。監督のベアトリスは「私の映画なのよ!」と不満と
怒りを皆にぶつけ、皆がイライラとした現場になっていく。
映画の撮影現場って本当にこういうものなのだろうか。事前に打ち合わせをして
いるだろうし、ここまで混沌としたものにはならないのではないかと思うが。ベ
アトリスがいくら言っても撮影監督は撮影をやめないし、ベアトリスの怒りは頂
点に達している。みんなちょっと落ち着きなさいよ、監督の指示に従って協力し
ようよ、と言いたくなる。もう映画作るのやめたら?という感じ。
ベアトリス・ダルは声がダミ声でドスが効いている。「屋敷女」での演技は怖か
ったなあ。シャルロット・ゲンズブールは最近英語の映画への出演が多いので、
久しぶりにシャルロットのフランス語のセリフを聞けて嬉しかった。照明の点滅
がひどくて目に(神経に?)悪い映画だったが、おもしろかった。


ピエトロのサラダとパスタ。私は魚介類が苦手なのに何故か鰯が入ったペペロン
チーノを注文してしまいました。注文して後悔しましたが(笑)、意外とおいしか
ったです。でもやっぱり他のペペロンチーノにすれば良かったかな

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ビバリウム

2021-03-23 22:50:33 | 日記
2019年のアイルランド・ベルギー・デンマーク合作映画「ビバリウム」を観に
行った。

トム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は新居を探し
ている若いカップル。ある日2人はふと入った不動産会社でマーティン(ジョナ
サン・アリス)という社員に「ヨンダー」という新興住宅地を紹介され、見学に
行くことになる。ヨンダーは全く同じデザインの家が整然と建ち並んでおり、辺
りは静かでひと気もなく、別世界のよう。トムとジェマはマーティンに9番の家
を紹介され中に入るが、見学している途中でマーティンはいつの間にか姿を消し
てしまう。不審に思った2人は帰ろうとするが、道に迷ってしまう。どのルート
を辿っても、9番の家の前に戻ってきてしまうのだ。そのうち車がガス欠になり、
仕方なく2人は9番の家で一夜を過ごすことに。そして翌朝家の外に出ると、玄
関前に段ボール箱が置かれており、中には男の赤ん坊が入っていた。

不条理ホラーというのだろうか、「観ていたら頭がおかしくなりそう系」のホラ
ー映画である。監督はロルカン・フィネガンというアイルランドの人で、とても
おもしろかった。段ボールの中に赤ん坊が入れられているのを見つけたトムとジ
ェマは愕然とし、トムは何とかヨンダーの出口を探そうとして屋根に登る。しか
し家々はどこまでも果てしなく続いており、その光景にまた驚く。車が使えなく
なった2人はひたすら歩くが、どうしても9番の家に戻ってしまう。携帯電話も
圏外だ。飛行機はおろか鳥さえ飛んでおらず、まるでヨンダーの街に閉じ込めら
れたかのようだ。出られなくなった彼らには9番の家に住み赤ん坊を育てるしか
道はなかった。段ボールには「育てれば解放される」と書かれていた。
とても奇妙な映画である。そしてトムとジェマの状況を考えると恐ろしい。赤ん
坊が大きくなったら解放されるのだろうかという微かな望みを抱いて彼らは育児
をする(させられる)が、その子供がまた奇妙だった。すごいスピードで成長し、
98日後には7歳児ほどの体型になる。そして大人の声でしゃべった。奇声を発し
たり家の中を走り回ったり、トムとジェマの言葉や仕草を真似したり、彼らには
理解できない訳のわからない画像が映ったテレビをじっと観ていたりする。トム
たちは次第に心身共に疲弊していく。
冒頭でカッコウの托卵のシーンが映し出されるのだが、これが重要な意味を持っ
ており、トムとジェマはまさに托卵させられているのだ。そしてビバリウムとい
うのは「生物の生息環境を再現した飼育・展示用の容器」という意味であるらし
く、映画のタイトルとカッコウのシーンで物語の内容が暗示されていることにな
る。この映画は他にも伏線というか暗示的な描写が多くて、とても興味深い。子
供がトムたちの言葉を真似しているのにも意味があった。そういえば不動産業者
のマーティンもジェマの発言を真似しているシーンがあって、ジェマは変な顔を
するのだが、これも同様である。子供はジェマをママと呼ぶが、ジェマは「私は
あなたのママじゃない」とイラつきながら言う。そして子供はあっという間に青
年へと成長する。
トムは自分の仕事を見つけたかのように庭の穴掘りに熱中する。寝食を忘れ、取
り憑かれたように。そうでもしないと生きていけないのだろう。私がトムたちの
状況におかれたら、気が変になってしまうかもしれない。ヨンダーの家はどれも
同じ緑色の家で、それが果てしなく並んでおり、まるでシュールレアリスム絵画
のようである。シュールレアリスム絵画は好きだが住むのはお断りだ。トムとジ
ェマは衰弱していくが、彼らを9番の家に閉じ込め、子供を育てさせた"何か"の
正体は明かされないままだ。そしてトムがしていた穴掘りも重要な意味を持って
いたのが後にわかる。ラストは衝撃的で、非常に後味が悪い。とても怖くておも
しろい映画だった。


私の隣で一緒に布団に入って寝ているノエル。

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色男ホ・セク

2021-03-17 22:38:00 | 日記
2019年の韓国映画「色男ホ・セク」。

朝鮮時代。美しく整った容姿と優れた技芸、女を酔わす話術を兼ね備えた
ホ・セク(ジュノ)は、生まれ育った妓房が経営の危機に瀕していることを
知り、女性客相手の男性妓生(キーセン)になることを決意する。相棒ユッ
カブ(チェ・グィファ)と共に宣伝活動に乗り出し、噂を聞きつけた女性た
ちで店は大繁盛。彼女たちはたちまちセクに魅了されていった。そんな中、
セクは町で美しい女性へウォン(チョン・ソミン)と出会う。これまでどん
な美女にも心をときめかせることがなかったセクは、自分に全くなびこう
としないへウォンに惹かれ、猛烈なアタックを開始する。

昔の朝鮮を舞台にした笑って泣けるラブストーリー。コメディ要素もキュ
ンキュン要素もてんこ盛りで、とてもおもしろかった。美男のホ・セクは
妓生だった母から生まれ、妓房で育った。妓生のお姐さんたちからかわい
がられ、母亡き後は妓房の経営者である叔母に世話になっていたが、いい
年をして今で言うニート状態で、とうとう叔母から追い出されてしまう。
それでもお気楽なセクは、へウォンという美女と知り合う。セクはへウォ
ンを好きになるが、へウォンは相手にしない。やがてセクは彼女の家庭の
事情を知る。へウォンには兄がいるが、兄は科挙(官僚登用試験)に何年も
落ち続けており、それは昔へウォンの好物の柿をとるために柿の木に登り、
落ちて頭を打ったせいで記憶力が悪くなったため、責任を感じているへウ
ォンは兄が科挙に合格するまで誰とも結婚しないと決めていたのだった。
へウォンに求婚し続けている男もいるが、へウォンは承諾しなかった。
そんなある日セクは妓房が経営難に陥り、借金の取り立てが来ていること
を知る。美形で楽器、絵、書、踊りと何でもできるセクは、自分が女性相
手の男性妓生になって店を救おうと決意する。セクは「男は妾を作って遊
んでいるのだからご婦人たちが自分に心を癒されたっていいじゃないか」
という信念のもと、女性客の相手をし、店は繁盛して持ち直す。ところで
映画では「烈女」という言葉が度々出てくるのだが、これは未亡人のこと
だそうだ。夫亡き後も貞節を守る女性は表彰されたりしていたようだ。映
画ではある意味男尊女卑を表す言葉として使われていて、興味深い。
やがてセクは自分の他にも美男を何人も雇って、店はますます評判になる。
そして同時にへウォンへのアプローチも忘れてはいない。セクはへウォン
に自分の身分を隠していた。当然、身分違いだからだ。それにしてもへウ
ォンの兄の物覚えの悪いことと言ったら。あれは柿の木から落ちたせいで
はなく元々頭が悪いんだろうなと思った。これではへウォンはいつまで経
っても結婚できない。かわいそうなへウォン。そして彼女は次第にセクの
愛を受け入れるようになっていく。へウォンに求婚している男(いいとこ
ろのお坊ちゃん)とセクは対立する。
コメディ感満載の前半から後半は雰囲気が変わってくる。セクが妹のよう
にかわいがっていた1番若い妓生がある事情から自殺してしまい、セクは
嘆き悲しむ。それをきっかけにセクの人生も変わるのである。このエピソ
ードは本当にかわいそう。セクは南方の言葉(タイ語か何か)が少し話せて、
へウォンにある言葉を教える。これが最後に大きな意味を持って明らかに
なるのだが、このシーンは感動的だった。
ホ・セク役のジュノは人気K-POPグループ「2PM」のメンバーだそうだ。
顔は…色男かどうかよくわからない顔をしているが、歯の浮くようなセリ
フで女性たちを虜にしていく様子はユーモラスで似合っていた。妓生姐さ
んや妓生男子たちの衣装も豪華で美しかった。ラストは本当に切ない。お
もしろくていい映画だった。




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レイジング・ケイン

2021-03-10 22:39:00 | 日記
1992年のアメリカ映画「レイジング・ケイン」。

児童心理学者のカーター(ジョン・リスゴー)は子育てをしながら、子供の心理
を観察し続けていた。しかしその熱意は次第に常軌を逸していき、ついには我
が子だけでは飽き足らず、他人の子を誘拐して研究材料にしようと考えていた。
そんなカーターの前に、双子の弟のケイン(ジョン・リスゴー)が現れ、ケイン
の助けを借りて誘拐を行う。2人は共謀して次々と邪魔者を消していく。

ブライアン・デ・パルマ監督によるサイコ・サスペンス。児童心理学者で精神
科医のカーターは、精神科医を休業して家で幼い娘の様子を観察していた。彼
の研究に対する熱意は高く、娘の部屋に監視カメラまで付けており、医師の妻
ジェニー(ロリータ・ダヴィドヴィッチ)は彼の行動に不審なものを感じていた。
ある日カーターは町で友人のカレン(テリー・オースティン)に会い、娘と一緒
に車でカレンに送ってもらうが、途中でカレンと口論になる。カーターはとっ
さに薬でカレンを眠らせるが、その後どうしたものかと迷っていると、カータ
ーの双子の弟のケインが現れ、カレンを殺して車ごと海に沈めるよう提案する。
そしてカレンの息子を自分たちの父親であるニックス博士(ジョン・リスゴー)
の元に連れていく。
これはもうジョン・リスゴーの演技を見る映画。彼が何役も演じている。主人
公のカーターの双子の弟ケインの正体はすぐにわかる。カーターは多重人格者
だった。父親のニックスも精神科医で、子供に関するある研究をしていたのだ
が、それがトラウマとなって多重人格になってしまったのだった。やがてカー
ターはジェニーが昔の恋人と不倫しているのを知ってショックを受ける。ケイ
ンとなったカーターはその不倫相手に罪を着せようと別の殺人を犯す。
デ・パルマ監督の特徴である長回しのぐるぐるカメラや夢オチなどが盛り沢山。
ジョン・リスゴーの演じ分けもすごいし、随所にヒッチコックの影響も見てと
れる。というかデ・パルマ監督がヒッチコックの影響を強く受けているのは有
名なのだが。カーターはいくつもの人格を有しているが、ラスト近くでわかる、
父親であるニックス博士に関するエピソードは意外で驚いた。これは本当に騙
された感じでおもしろかった。
カーターの妻ジェニーはケインに殺されかけるが、彼女はなかなかの最低女だ
と思う。元恋人とヨリを戻してしまうのもだが、そもそもその彼と恋愛関係に
なった経緯がひどいのだ。ジェニーは元々その彼の妻の担当医だった。妻は末
期がんで入院しており、見舞いに通っている夫と顔を合わせるうちにデキてし
まったのだから。意識のない妻の側で抱き合ったりキスをしたり、何と不謹慎
な2人だろう。最後に彼らの姿を目に焼きつけ死んでいった妻がかわいそうで
ある。そしてどの死体も皆カメラ目線なのが怖かったし、ラストもゾッとした。
とてもおもしろかった。


良かったらこちらもどうぞ。ブライアン・デ・パルマ監督作品です。
殺しのドレス
愛のメモリー
悪魔のシスター



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